猫の甲状腺機能亢進症とは?原因・症状・治療法をわかりやすく解説

シニア猫でよく見つかる「甲状腺機能亢進症(こうじょうせんきのうこうしんしょう)」。
体重減少、食欲旺盛、落ち着きのなさ…そんな変化はありませんか?
この記事では、飼い主さんが知っておきたい猫の甲状腺機能亢進症の基本情報をわかりやすくご紹介します。


甲状腺機能亢進症とは?

甲状腺(首にある小さな内分泌器官)から分泌されるホルモンが過剰になる病気です。
ホルモンの影響で代謝が活発になりすぎ、様々な体調不良や行動変化を引き起こします。

この病気は10歳以上の高齢猫で非常に多いことが知られており、国内でも高齢猫の健康診断でしばしば見つかります。

甲状腺ホルモンの作用

ほぼ全ての臓器・細胞に対して、代謝活性・分化増殖を亢進させます。具体的にはアミノ酸輸送の促進、ミトコンドリアでの酸素消費増大、エネルギー産生、体温上昇、細胞の成長・分化・増殖、心機能亢進などが挙げられます。


猫の甲状腺機能亢進症の主な症状

呼吸器への影響

  • ストレス時や運動直後の開口呼吸・パンティング

神経への影響

  • 活動性亢進:特徴的な鳴き声(「ン」にゃお!)
  • 攻撃性
  • 虚脱・疲労

消化管への影響

  • カロリー消費量の増加=体重減少
  • 急激な多食
  • 嘔吐
  • 腸蠕動運動亢進・吸収不良=下痢や排便量増加

腎臓への影響

  • 腎血流量・糸球体濾過量・尿細管吸収量の増加→多尿・多飲になる。

心・血管系への影響

  • 心機能亢進:収縮期雑音・頻脈・不整脈
  • 全身性高血圧:網膜剥離・神経症状

自宅で気づきやすい症状は?

甲状腺機能亢進症の中でも特に気づきやすい症状として、「食欲はあるけれど痩せてきた」「多飲多尿である」「性格が変わった、鳴き声が変わった」といったものが挙げられます。

これらの症状が1つでもあれば、早めに動物病院での健康診断をお勧めします。


どうして甲状腺機能亢進症になるの?

88%は甲状腺の良性腫瘍(腺腫)が原因です。左右対称性の腫大が70%と言われています。
まれに悪性腫瘍(甲状腺癌)の場合もありますが、全体の5%以下と少数です。
発症の詳しい原因はまだ完全には解明されていませんが、加齢・環境ホルモン・食事が影響していると考えられています。


診断方法

身体検査

  • 触診での甲状腺の触知
  • 削痩(65%)
  • 循環器系の変化(心雑音54%、ギャロップ音15%、頻脈42%)
  • 過剰攻撃性(10%)

8歳以上の猫の健康診断で偶然見つかる場合も多いです。

臨床検査

血液検査

  • 異常を認めない事が多い。
  • 軽度の赤血球増多症(53%)

血液生化学検査

  • ALT上昇、ALP上昇

甲状腺機能亢進症の猫の 90% 以上で ALT または ALP のいずれかの値が上昇しています。特にALPは猫では半減期が長いため、ALPのみの上昇はT4測定を実施すべきです。

超音波検査

  • 心臓:心筋壁の肥厚、左心房の拡大

※甲状腺機能亢進症に伴う心筋壁の肥厚の場合、甲状腺の治療後、左室肥大は多くの猫で消失または改善します。

  • 甲状腺・副腎の腫大

特殊検査

  • T4(1.0-3.0ug/dl)
    >4.0:確定的
    3.0-4.0:可能性あり
    ※T4は他疾患の影響で「低下」することがしばしばある
    ※fT4は他疾患の影響で「上昇」することがあるが、一般的には影響を受けにくい。

猫の甲状腺機能亢進症の検出にはT4が適当


内科治療

チアマゾール

  • 低用量から開始:2.5mg/cat/day 投与はSIDよりBIDの方が効果あると報告あり
  • 治療開始後に腎障害が顕著化する事があるため、腎機能も同時にモニタリングする必要がある
  • 自宅でのモニタリング:食欲の安定化、呼吸状態の良化、性格の安定化

モニター

  • 初期は2週間ごと、安定期は1-2ヶ月
  • 増減:2.5-5.0mg/cat/dayで調節
    多くは7.5-10mg/cat/dayで維持
  • モニタリング:T4、BUN、Cre、PLT

副作用

  • 食欲不振
  • 嘔吐:減量により改善するが、改善しない場合は投薬中止を検討
  • 顔面掻痒(特に耳に好酸球が集中しやすい)
  • 血小板減少

高血圧に対する治療

  • チアマゾール投与により高血圧が改善→投薬の継続
  • 改善なし→併用薬の検討(ACE阻害剤、Caブロッカー、β ブロッカー)

心筋肥大に対する治療

  • 甲状腺機能亢進症由来の心筋肥大では、チアマゾール投与により改善する事がある

放置するとどうなる?

治療せずにいると、

  • 心臓病(高血圧性心症・肥大型心筋症)
  • 腎不全の悪化
  • 重度の消耗と衰弱

などにつながり、寿命を縮める可能性があります。
早期発見・早期治療で元気な時間を延ばすことが可能です。

まとめ

✔ 高齢猫(10歳以上)で多い病気
✔ 食欲旺盛なのに痩せる、元気すぎる場合は要注意
✔ 早期発見でQOL(生活の質)・寿命を保てる
✔ 定期的な健康診断がとても大切

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