犬の食道異物は「ただの閉塞」ではない!|虚血性疾患としての理解

犬の食道異物は救急診療で比較的遭遇頻度の高い疾患です。特に「骨」「デンタルガム・ローハイドガム」「ジャーキー」などを契機に来院する症例は非常に多く、一般診療でも経験する機会は少なくありません。
「食道に詰まらせたくらいで…」と思われがちですが、我々動物病院ではなるべく早急にこれの摘出を試みます。
それは、食道異物が「異物を取ったら終わり」ではない疾患だからです。

近年の論文では、食道異物の本質は単なる「機会的閉塞」ではなく、「時間依存性の虚血性障害」であることが強調されています。

本記事では、食道異物の病態をはじめ、なぜ早急に治療を行うべきであるかについて、近年の論文をもとに整理します。

食道異物(食道閉塞)とは?

食道異物は文字通り、食道内に異物が詰まることを指します。
食道異物34例を解析した論文(Esophageal foreign bodies in dogs: 34 cases (2004–2009))では異物として多いものとして、ローハイドガム(牛などの動物の「生皮(ローハイド)」を原料とした犬用ガム):29.7%骨:29.7%が多いとされ、114例を解析した大型研究(Retrospective evaluation of factors associated with degree of esophagitis, treatment, and outcomes in dogs presenting with esophageal foreign bodies (2004-2014): 114 cases)でも骨が最多でした。
当院での臨床感覚としても、ローハイドガムやデンタルガムによる食道閉塞は非常に多い印象があり、その他として、リンゴなどの果実や固形肉(焼き鳥)なども遭遇します。

異物の閉塞が起こりやすい部位は胸郭入り口の頚部食道、心臓直上の心基底部手前尾側食道が挙げられます。この中でも尾側食道が最多閉塞部位とされています。
尾側食道は、心基部や横隔膜裂孔によって食道の拡張性が制限されることや蠕動エネルギーが減衰するため、食塊や異物が停滞しやすいと考えられています。

この部位は長時間圧迫による虚血障害が起こりやすく、重症化しやすい特徴があります。

食道異物の本当の問題は「閉塞」ではない

食道異物では、「異物が詰まっていること」そのものよりも、異物による持続的な圧迫によって食道壁の血流が障害され、虚血が生じることが大きな問題です。

食道は胃や小腸と比較して血流が豊富な臓器ではないため、一度虚血が起こると組織障害が急速に進行し、食道粘膜や食道壁の壊死を引き起こすことがあります。

壊死した粘膜はやがて脱落し、潰瘍が形成されます。さらに障害が重度の場合には食道穿孔へ進行し、縦隔炎や胸膜炎など致死的な合併症を招くこともあります。一方、穿孔に至らなかった場合でも、治癒過程で線維化が進行すると食道狭窄が形成され、長期的な嚥下障害の原因となります。

タイムリミットは24時間以内

114例を対象とした大規模研究では、食道閉塞の持続時間が24時間を超えると、食道潰瘍や壊死などの重篤な食道損傷の発生率が大きく上昇することが報告されています。

重度食道炎発生率は:

停滞時間重度食道炎
≤24時間19%
>24時間53%

でした。

さらに major complication(狭窄・穿孔・重度誤嚥性肺炎)は:

停滞時間major complication
≤24h0%
>24h21%

でした。

つまり、食道閉塞は発症してから、なるべく早急に対応する必要があるということです。

食道閉塞の症状

食道閉塞では、異物を飲み込んだ直後から症状が現れることが多く、原因と症状の発生時期が近いため、飼い主さんが異変に気付きやすい疾患のひとつです。

異物を飲み込んでから数分以内に、「流涎(よだれ)」「吐こうとしても何も出ない動作(えずき)」、「ハアハアとしながら落ち着きがなくなる」といった症状がみられることがあります。

しかし、これらの症状は一時的に軽減したり消失したりすることも少なくありません。そのため、「少し様子がおかしかったが、その後元気になった」と判断され、食道閉塞が見逃されてしまうケースもあります。

先述の通り、食道閉塞は時間経過とともに重篤化しやすい疾患であるため、気づいた際には早急に動物病院へ受診すべきです。

食道閉塞の診断

食道閉塞の診断では、飼い主さんからの問診が非常に重要です。「おもちゃや骨、おやつなどを丸飲みしたのを見た」「何かを飲み込んだ直後から落ち着きがなくなった」といった情報は、食道閉塞を疑う大きな手がかりとなります。
また、診察時には嘔吐しようとする動作(嘔吐反射)、流涎(よだれ)、嚥下困難、不安そうな様子などが認められることが多く、これらの症状も診断を後押しします。

画像診断としては、まず頸部・胸部・腹部の単純レントゲン検査を行います。
異物自体がX線で確認できる場合や、食道の拡張食道内ガスの貯留などの間接所見が認められる場合には、比較的容易に診断できます。
一方で、心臓直上の心基底部での閉塞や、木片・布・ゴム製品などX線に写りにくい異物では診断が難しいこともあり、その場合には造影検査や内視鏡検査を検討します。

レントゲン検査は左下ラテラルも!

レントゲン検査で食道異物を評価する際には、左右両側のラテラル撮影を比較することが望ましいと考えています。特に左下ラテラル撮影では、食道がやや左側を走行していることに加え、右肺の含気が比較的保たれやすく後縦隔とのコントラストが改善するため、異物や食道拡張を描出しやすい印象があります。また、重力性無気肺の影響を受けにくいことも診断精度の向上に寄与していると考えられます。

内視鏡検査による診断と治療

食道閉塞の確定診断と治療は、内視鏡検査によって行います。内視鏡では異物の位置や性状(消化可能なものかどうか)、大きさ、硬さなどを評価し、口腔側へ回収するのか、それとも胃内へ押し込む(落とし込む)のかを判断します。胃内へ移動させた場合には、異物の種類や大きさに応じて胃切開による摘出が必要かどうかも検討します。

摘出後の評価

異物を安全に摘出することはもちろん重要ですが、それと同じくらい重要なのが摘出後の食道粘膜の評価です。なぜなら、食道閉塞による最も深刻な障害は、異物による圧迫に伴う虚血と組織障害だからです。

特に重要なのは、異物摘出後の食道粘膜の評価です。
まず注目すべきなのが粘膜の色調であり、軽度の症例では発赤や充血のみが認められます。
一方、白色調を呈する場合は粘膜虚血紫色調を呈する場合はより深部に及ぶ虚血や組織障害が疑われます。
さらに黒色調を呈する場合には壊死の存在を強く疑う必要があります。

次に、粘膜欠損の有無も重要な評価項目です。
潰瘍や粘膜欠損が認められる場合には、障害が筋層まで及んでいる可能性があり、微小穿孔や筋層障害のリスクが考えられます。

また、病変が食道を全周性に取り囲んでいる場合には注意が必要です。全周性病変では治癒過程で輪状の線維化が生じやすく、後に食道狭窄を発症するリスクが高くなります。

なかでも壊死を伴う重症例では、摘出直後には明らかな異常がなくても、数日後に食道穿孔を起こす「遅発性穿孔」が問題となります。そのため、重度の粘膜障害が認められた症例では、入院管理のうえで慎重な経過観察を行うことが重要です。

重症例では術後も警戒が必要

異物摘出後も、粘膜虚血や壊死が認められた症例では慎重な術後管理が必要です。これは、摘出によって閉塞が解除された後も、虚血再灌流障害や進行性の組織壊死によって食道障害が悪化する可能性があるためです。

特に注意すべき合併症が遅発性穿孔です。重度の虚血や壊死を伴う症例では、摘出直後には穿孔が認められなくても、その後数日かけて食道壁の壊死が進行し穿孔に至ることがあります。そのため、少なくとも術後48〜72時間は厳重なモニタリングが推奨されます。

また、深い壊死や広範囲の粘膜欠損を伴う症例では、損傷した食道を安静に保ちながら栄養状態を維持することが重要です。このような症例では、胃瘻チューブや経鼻栄養チューブなどを用いた経腸栄養を検討します。実際に114例を対象とした報告では、約14%の症例で栄養チューブが設置されていました。

さらに、周術期を問題なく乗り越えた症例であっても注意は必要です。食道潰瘍や全周性病変を認めた症例では、治癒過程で線維化が進行し、異物摘出後1〜3週間程度で食道狭窄を発症することがあります。そのため退院後も嚥下状態や食事摂取状況を継続的に評価し、再診による経過観察を行うことが重要です。

まとめ

犬の食道異物は、単に「異物を取り除けば終わり」という病気ではありません。本当に重要なのは、異物によって生じた食道の虚血障害を評価し、その後の合併症を予防・管理することです。

特に、閉塞から24時間以上経過した症例、全周性病変を伴う症例、潰瘍や広範囲の粘膜欠損を認める症例、黒色調の粘膜壊死が認められる症例では重症化リスクが高く、遅発性穿孔や食道狭窄の発生を常に念頭に置く必要があります。

そのため内視鏡検査では、異物を摘出すること自体だけでなく、摘出後の食道粘膜を丁寧に観察し、病変の深達度や範囲を評価することが極めて重要です。食道異物診療においては、「異物をどう取るか」だけでなく、「食道をどう評価し、その後をどう管理するか」が予後を左右すると言えるでしょう。

関連記事


LINE友だち追加で診察予約、病院の最新情報はinstagramからチェックできます!!



  


辻堂・茅ヶ崎市エリアで犬猫の消化器症状でお困りの方は湘南ルアナ動物病院(湘南Ruana動物病院)までお気軽にご相談ください。