大型犬に多い胃拡張捻転症候群とは?命に関わる緊急疾患を正しく知ろう!
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胃拡張捻転症候群(GDV)とは
胃拡張捻転症候群(Gastric Dilatation-Volvulus、通称GDV)は、犬の胃がガスや液体で異常に拡張し、さらに胃自体がねじれてしまうという非常に危険な病気です。進行が早く、数時間で命を落とすこともある緊急疾患として知られています。
病態機序

胃の表面には無数の血管が走行しており、胃が拡張する事によりこれが圧排され、胃への血流が悪くなります。さらに胃拡張が進行すると、胃軸が回転する事により捻転が生じます。これにより胃の血管が遮断され、胃壁の壊死や脾臓への血流停滞など生じるようになります。このまま放置されると、ショック状態から多臓器不全が生じ、最悪死に至ります。
主な症状
GDVを疑うべき症状には以下のようなものがあります:
- 突然のお腹の膨らみ(特に左側)
- 吐きたいのに何も吐けない(空嘔吐)
- 落ち着きがない、苦しそうに呼吸する
- よだれが多くなる
- 虚脱、ぐったりする
- 心拍数の増加、粘膜蒼白
特に、「お腹の膨らみ」と「吐きたいけど吐けない」といった症状は胃拡張または胃拡張捻転症候群(GDV)の典型的な症状となりますので、これらの症状が見られたら、すぐに動物病院へ連絡してください。
原因と誘因
はっきりとした原因は不明ですが、以下のような誘因が知られています:
- 早食い、大量食い
- 食後すぐの運動
- 一日一食の給餌
- 高齢(中高齢犬に多い)
- ストレスや興奮状態
GDVは夜間に多い?
私個人の印象として、GDVは夜間救急で多く見られる疾患のように感じます。限定的にはなりますが、Glickmanらの疫学研究(2000年)では発症時間帯に関する解析はされていないものの、臨床報告では「午後遅くから夜にかけての発症が多い」との記述もあります。原因はわかりませんが、夜間の「副交感神経優位」な状況も関与する可能性もあるのではと私個人として考えています。
食事の後、特に早食いや一気喰い、空気を飲み込みやすいタイプの子だと、胃の中に急激にガスが溜まってしまうことがあります。この状態で副交感神経が優位になると、胃がたくさん動こうとするが、ガスが上手く抜けず、そのまま蠕動運動が活性化するために捻れてしまう。それも一つの要因ではないかと考えています。
好発犬種
特に胸の深い大型犬種に多く見られます:
- グレート・デーン
- ジャーマン・シェパード
- ボルゾイ
- セント・バーナード
- スタンダード・プードル
- レトリーバー
ただし、小型犬でも発症の可能性はゼロではありません。特にミニチュアダックスフンドは胃拡張および胃拡張捻転症候群の好発犬種として知られております。
診断
胃拡張捻転症候群は、緊急性の高い疾患となりますので、迅速な初期対応が求められます。診断を進めつつ、初期対応も同時に行う事が望まれます。
身体検査
- 特に左上腹部の誇張および「鼓音」の触知・打診
- レッチング(空嘔吐)や流涎
- 粘膜色・CRT・脈圧・温感冷感などからショックバイタルの評価
状態 | 温感・冷感 | CRT | 粘膜色 | 心拍数・脈圧 |
warm shock | 暖かい | 正常〜短縮 | 充血〜正常 | 上昇・強い〜正常 |
cold shock | 冷たい・温い | 延長 | 蒼白〜チアノーゼ | 正常〜低下・正常〜弱い |
腹部レントゲン検査
右下横臥(R L)と背腹(DV)での撮影が好ましいです。

典型的所見としてはガスで拡張した胃と「ボクシング グローブサイン」や「ダブル バブル サイン」と呼ばれる、捻転した胃による「区画化」ラインが見られます。
血液検査
- 電解質異常
- 乳酸値(継続的な乳酸値上昇は予後不良因子)
- SIRS病態への移行を懸念して肝酵素や腎機能、凝固系のチェックも必要
心電図検査
- 心室性期外収縮やブロック、心室頻拍などの有無を確認
超音波検査
胃拡張捻転症候群の診断としては有用ではありませんが、後述する応急処置の際の穿刺ガイドとしてや脾臓の状態を確認する上では有効です。また、ショックバイタルの確認として心臓内ボリュームの評価も適宜行います。
治療法
治療の基本はショック状態の安定化と胃ガスの抜去、外科手術です。ショック状態の安定化は身体検査で判断した後に迅速に行い、画像検査で胃拡張・胃捻転を確認したら(もしくは身体検査の段階で胃拡張が濃厚と判断したら)速やかに胃ガスの抜去を試みます。
ショック状態の安定化
・大量の等張液(乳酸リンゲルなど)を静脈ルートで急速投与
・コロイドや昇圧剤も必要に応じて使用
胃ガスの減圧
・18G針や18G留置針など太めの針を用いて、経皮的に腹部穿刺を行い、ガスを抜去
・この際、脾臓や他の臓器を傷つけないよう超音波ガイド下で行う事が望ましい。
・捻転ではなく、胃拡張のみの場合は、消化管運動促進薬や輸液などにより蠕動運動を促す。
緊急手術
・状態が安定したら、速やかに外科手術を行います。
・捻転した胃を整復(捻れを戻す)し、胃チューブなどで胃ガスを抜去する。
・胃固定術(胃腹壁固定術)を行う事で再発を予防。
・必要に応じて壊死した胃壁の部分切除や脾臓摘出術も行う。
手術後は数日間の入院が必要で、合併症の管理も重要です。
合併症と予後
GDVにはさまざまな合併症が起こり得ます。
- 整復に伴う再還流障害(血流再開に伴い、壊死細胞などの毒素が全身に行き渡る)
- 心臓の不整脈(特にVPC)
- 播種性血管内凝固(DIC)
- 胃壁壊死による穿孔性腹膜炎
- 脾臓の壊死や破裂
早期発見・早期治療が行われれば、回復率は約80〜90%と言われています。ただし、ショックが重度だった場合や壊死が広範囲な場合は予後不良となることもあります。
予防法はあるの?
- 一日2〜3回に分けて給餌する
- 早食い防止ボウルや食器を使う
- 食後は安静に過ごさせる(1時間は運動NG)
- 高リスク犬種には予防的胃固定術を検討する?
まとめ
胃拡張捻転症候群は、命に関わる緊急疾患でありながら、早期対応と予防策によってリスクを減らすことができます。
特に胸の深い大型犬を飼っている方は、この病気について正しく知っておくことが大切です。
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