犬の皮膚肥満細胞腫

生物学的挙動

【プロフィール】

  • 好発年齢:8歳〜
  • 犬種:ボクサー・パグ・ボストンテリア・ビーグル・レトリーバー
  • 病因:SCF(幹細胞因子)の細胞膜レセプタータンパクをコードするc-kit遺伝子の変異が関与?

【局所浸潤性】

  • 局所浸潤性は強い
  • 急速増大・縮小を繰り返す。
  • 犬の原発性MCTの10-15%は多発性を示す。

【転移性】

  • 組織学的グレードに依存して高い。

Patnaik分類:G1、G2、G3

Kiupel分類:High グレード、Low グレード

  • 全体を通して約30%で遠隔転移が認められる。
  • 転移はseed and soil理論で成り立つ。脾臓肝臓骨髄>>肺

【随伴症候群】

細胞質内に複数のサイトカイニンを持つことでの障害を引き起こす。

  • ダリエ兆候:物理的脱顆粒による紅斑・浮腫・皮下出血など
  • 高ヒスタミン血症:H2受容体を介する胃酸分泌・局所性血行障害→胃潰瘍
  • 癒合遅延:顆粒プロテアーゼやヒスタミンなどによる→術創閉創前に十分な洗浄が必要

診断・治療手順

細胞診によるグレード評価

肥満細胞腫の臨床ステージ分類

肥満細胞腫の治療

  • 術後組織学的分類においてグレード1の場合は、側方1cm深部4mmでも再発がなかった。
    ミリ単位の結節の場合、適応の可能性
  • 不完全切除の場合、再切除・放射線療法・化学療法といった選択肢がある。
  • グレード2の不完全切除に多いて
    生存期間中央値:再切除→2930日放射線→2194日、対照群→710日、化学療法→生存期間や制御を改善しなかったという報告あり
  • 不完全切除の場合は、再切除放射線療法の選択が長期予後を期待する上で妥当な選択肢である。

リンパ節の取り扱い

  • 「触診できないサイズor正常サイズ」の所属リンパ節においても組織学的に検出可能な転移が約50%認められたという報告もある。
  • 腫瘍サイズが>3cmのc MCTでは所属リンパ節転移疑いは正の相関性が認められる。
  • 転移したリンパ節の摘出が生存期間の延長に繋がる可能性がある

正常な大きさであっても、所属リンパ節切除は妥当であると考えられ、特に3cmを超えるcMCTの場合はより積極的に実施すべきである。

肥満細胞腫の組織学的分類(Patnaik分類)

組織学的特徴1500日以上生存率
グレード1真皮に限局
よく分化し、比較的豊富な細胞内顆粒
腫瘍による壊死や水腫が最小限
93%
グレード2真皮深層まで広がる
分化度はやや低く、顆粒は様々、核分裂0-2/hpf
比較的広範囲な壊死や水腫や間質変性
44%
グレード3皮下組織まで深広く広がる
分化度は低く、顆粒も見づらい
核分裂像3-6/hpf
著しい核異型
6%
  • 真皮から発生した腫瘍の範囲を基準にしているため、皮下組織のみに発生したMCTには用いる事ができない。
  • 病理診断医の技量に左右されやすい。

肥満細胞腫の組織学的分類(Kiupel分類)

10視野で観察し、以下のうち1つでも当てはまると高グレードと評価

  • 核分裂像:≧7/hpf
  • 多核細胞(核≧3):≧3/hpf
  • 奇怪核(Bizarre): ≧3/hpf
  • 巨核細胞:>10%

生存期間中央値:低グレード→2年以上高グレード→4ヶ月以下

【術後】

以下のいずれかの場合は術後補助療法が必要。それ以外の場合、推奨される補助療法なし。

  • Patnaik分類:Grade 3
  • サージカルマージン(ー)
  • リンパ節・脈管浸潤(+)

【補助療法】

放射線治療

  • 肉眼病変に対する放射線治療:効果持続期間中央値は1年以上
  • 不完全切除の場合における顕微鏡的残存病変に対して:生存期間中央値は2〜3年以上

化学療法

ステロイドは短期での反応率は70%前後であるが、持続することはほとんどなく、1ヶ月以上持続するのは20%前後である。

効果があると思われる薬剤(CCNUVCRVBL)の単剤での反応率は決して高くない。ステロイドと組み合わせた場合、幾分効果を認める。

  • VLB(1.5-2.0mg/m2/Q1-2W)+Pre(2mg/kg)
  • CCNU(60-90mg/m2/Q3W)

分子標的薬

c-kit遺伝子ecson11の変異→分子標的薬の高感度。悪性度が高いほど高確率に認められる。

→Grade3の症例や抗がん剤に対して抵抗性を示す症例に使用される。

  • イマチニブ10mg/kg/sid +プレドニゾロン1mg/kg/sid
  • 分子標的薬単独での効果は一時的(約2ヶ月)である事が多い。
  • 分子標的薬と他の化学療法剤を併用した場合、用量依存性に骨髄抑制が重篤なものになるため注意が必要。

予後・予後観察

臨床ステージ分類

  • ステージ1・2→NR
  • ステージ3→582日(約1年半)
  • ステージ4→283日(約1年)

分化度

  • 中〜高分化→2年生存率85%(10-15%で遠隔転移)
  • 未分化→まちまちだが予後不良(80%以上で遠隔転移)