犬と猫の慢性腎不全(CKD)の特徴と病態の違い、診断のポイント

はじめに

犬と猫における慢性腎不全(CKD)は臨床で非常に頻繁に遭遇する疾患のひとつです。しかし、動物種によって原因となる病理学的病変や臨床経過に明確な違いがあるため、それぞれの特性を理解し適切な診断・治療を行うことが重要です。本稿では、犬と猫のCKDにおける主な原因病変の違い、病態生理、IRISの診断基準および治療の最新動向について詳細に解説します。

1. 腎臓の構造と機能予備能の理解

  • 腎臓には約100万個のネフロン(糸球体+尿細管)が存在し、これが尿の生成単位となっています。
  • 健常な状態では、約30%のネフロンが正常に機能していれば全体の腎機能は維持されると考えられています(機能予備能)。
  • CKDはこの予備能が低下し、機能喪失が進むにつれて臨床症状や検査異常が顕在化します。

2. 犬と猫のCKDにおける原因病変の違い

犬と猫の慢性腎不全(CKD)は「片側あるいは両側の腎臓の構造的、機能的異常が3ヶ月異常継続する状態」と定義されます。腎臓を悪くする基礎疾患(尿路閉塞、腎盂腎炎、中毒、急性腎障害 (AKI)、全身性高血圧など)以外において、犬と猫でCKDを引き起こす病態は少し異なります。

猫におけるCKDの原因の多くは間質性腎炎

猫のCKDのほとんどが間質性腎炎(Interstitial nephritis)を基盤としています。

  • 間質性腎炎とは、尿細管周囲の結合組織(間質)に慢性的な炎症細胞浸潤および線維化が生じる病変です。
  • 猫の間質性腎炎は尿細管内に老廃物が詰まる事で生じる慢性炎症により発症すると考えられています。
  • 糸球体病変は相対的に少なく、主に尿細管機能障害に起因する尿濃縮能低下が早期から認められます。
  • このため、猫のCKDは進行が比較的緩徐的であることが多いのが特徴です。

犬のCKDは糸球体疾患と間質性腎炎がほぼ半々

犬のCKDでは、病理学的に糸球体疾患(glomerulonephritis)と間質性腎炎がほぼ半数ずつの頻度で認められるという報告があります。

  • 糸球体疾患には、免疫複合体性糸球体腎炎、アミロイドーシスなどが含まれます。
  • 糸球体病変を伴う場合、尿中蛋白の漏出(蛋白尿)が多く、これが急性進行性腎障害を促進します。
  • 一方、間質性腎炎は尿濃縮障害(低比重尿)や腎性貧血の原因となることが多いですが、蛋白尿は比較的軽度です。

3. 糸球体疾患と間質性疾患の病態生理と臨床的特徴

糸球体疾患

  • 糸球体は、血液から尿を生成する濾過装置の中心的構造です。
  • 糸球体基底膜の損傷や免疫複合体の沈着により、糸球体の透過性が亢進し、アルブミンなどの蛋白質が尿に漏れ出します。
  • これにより、臨床的には持続的な蛋白尿(UP/C上昇)が認められます。
  • 尿細管に蛋白が流入すると、それを再吸収しようと尿細管上皮にストレスがかかり、炎症反応やアポトーシスが誘導され、これが繰り返される事で尿細管間質の線維化(間質性腎炎)が促進され、CKDの進行が加速されます。
  • 糸球体病変のCKDは比較的進行が速く、治療介入が遅れると重篤な腎不全へ移行しやすい。

間質性腎炎

  • 間質は尿細管を取り囲む支持組織であり、ここに炎症や線維化が生じると尿細管機能障害をもたらします。
  • 主な臨床所見は尿濃縮障害(低比重尿)や腎性貧血の発症です。
  • 腎性貧血は、間質に存在する造血刺激ホルモンであるエリスロポエチン(EPO)産生細胞の障害に起因します。
  • 間質性腎炎では蛋白尿は比較的少なく、UPCは正常範囲または軽度上昇にとどまることが多いです。
  • ただし、間質性腎炎の慢性化に伴い、二次的に免疫複合体が糸球体に沈着して二次性糸球体腎炎を引き起こすケースもあります。


4. IRISによるCKDの診断基準

犬猫の慢性腎不全の診断と治療は国際獣医腎臓病研究グループ(IRIS)のガイドラインをもとに行われます。このガイドラインは3-4年ごとにアップデートされており、2023年に最新版が発表されました。

IRISステージ分類

  • 適切な水和状態を維持しており、検査値の急激な変化がないことが前提条件です。
  • 血清クレアチニン値IDEXXのSDMA値を基準にステージ1〜4に分類され、ステージに応じた治療計画が立てられます。
  • 最も気を付けるべき事はCre上昇に対して、急性腎障害(AKI)との鑑別です。
    急性腎障害(AKI)は全身性炎症反応症候群(SIRS病態)・腎盂腎炎・尿路閉塞(尿管閉塞・尿道閉塞)・中毒・感染症・CKDの急性増悪(Acute-on-CKD)などで引き起こされるので、画像検査や尿検査を含む全身のスクリーニング検査が必要です。
  • 犬・猫ともにリンパ腫の症例では腎外性(腎臓が原因でなく)にSDMAが上昇する事があるので注意が必要です。
  • タンパク尿(UPC)と血圧(収縮期圧)の評価も診断・管理に重要な補助指標となります。
  • タンパク尿は尿細管に過剰なタンパクの流入により 、尿細管上皮細胞が障害され炎症・線維化が誘導されます。
  • 高血圧は糸球体毛細血管の過灌流と損傷によりネフロン喪失が進行します。

5. まとめ

項目
主なCKD原因糸球体疾患と間質性腎炎がほぼ半々ほぼ間質性腎炎が主体
蛋白尿の程度糸球体疾患で蛋白尿多いほとんど蛋白尿なしまたは軽度
CKDの進行速度糸球体病変では比較的速い間質性病変は緩徐的
尿比重低下することもあるが、糸球体病変で高度蛋白尿早期から低下(尿濃縮障害)
腎性貧血の発生間質性腎炎で特に起こりやすい造血刺激ホルモン低下による貧血が多い

おわりに

犬と猫のCKDは病態に違いがあり、それに基づいた診断・治療アプローチが必要です。特に、犬では糸球体疾患の有無を尿蛋白検査で評価し、猫では間質性腎炎に伴う尿濃縮障害や腎性貧血の管理に注力することが臨床成績の改善につながります。IRISの診断基準を用いて早期に病期を把握し、適切な治療介入を行いましょう。

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