雄犬の去勢手術はいつすべきか? - 早ければいいとは限らない理由 -

「去勢手術は若いうちにやるのがいい」と聞いたことがある方も多いと思います。
確かに、望まない繁殖の防止や攻撃性・マーキングの抑制など、去勢にはたくさんのメリットがあります。
しかし一方で、あまりにも早い時期の去勢手術には注意が必要だという研究報告も増えてきています。
今回は、雄犬の去勢の“タイミング”について、少し逆説的な視点から考えてみましょう。


去勢の目的は「問題行動の予防」だけではない

一般的に去勢手術をすすめる理由は、

  • 発情行動(マウンティングやマーキング)の抑制
  • 発情行動に伴うストレスからの解放
  • 他の犬への攻撃性の緩和
  • 前立腺疾患や精巣腫瘍の予防
    などです。

これらの点は確かに大切ですが、去勢の目的を「行動のコントロール」だけに限定してしまうのは早計です。
犬の体は成長段階でホルモンの影響を大きく受けており、性ホルモンは単に生殖機能だけでなく、骨格や筋肉、関節、代謝、免疫系の発達にも関わっています。


早すぎる去勢がもたらすリスクとは?

最近の研究では、生後6か月未満での去勢によって次のような影響が出る可能性が指摘されています。

① 骨格や関節の発達への影響

性ホルモン(テストステロン)は、骨の成長板(骨端線)の閉鎖を促します。
早い時期に去勢すると、成長板の閉鎖が遅れ、脚が長くなる・関節の構造が変わるなどの影響が起きやすくなることがあります。
これにより、大型犬では前十字靭帯断裂や股関節形成不全のリスクが上がるという報告もあります。

② ホルモンバランスと代謝の変化

テストステロンが少なくなることで、筋肉量が減り、脂肪がつきやすくなる傾向があります。
特に若齢で去勢すると、基礎代謝が落ち、肥満体質になりやすいというデータもあります。
その結果、糖尿病や心臓病・関節疾患などの二次的な健康リスクが増えることがあります。

③ 行動面への影響は一概に言えない

「早めに去勢すれば落ち着く」と思われがちですが、
実は行動形成の途中でホルモンを断つことで、かえって不安傾向や恐怖反応が強くなるケースもあります。
テストステロンには「自信を持つホルモン」としての側面もあり、適度な分泌が社会性の安定に関わっていると考えられています。


理想的な去勢のタイミングとは?

犬種や体格によって発達スピードは異なります。
一般的な目安としては次のように考えられています:

  • 小型犬:生後8〜12か月頃
  • 中〜大型犬:生後12〜18か月頃

つまり、「体の成長がほぼ完成したタイミング」での手術が理想的です。
もちろん、マーキングやマウンティング行動が強い、あるいは外出が多く繁殖のリスクがある場合は、もう少し早い段階での去勢も検討されます。
大切なのは、「その子の成長段階と性格に合わせて決める」ことです。


飼い主さんができる観察ポイント

去勢時期を見極めるために、次のような点を観察しておきましょう。

  • 脚上げ排尿が始まったか?
  • 外陰部の発達が進み、精巣の大きさが安定してきたか?
  • 体格の成長が落ち着いてきたか(体重増加が緩やかになってきたか?)
  • 性成熟による問題行動(マーキング・マウンティングなど)の有無

こうした変化を確認しながら、動物病院でホルモンバランスや体格発達の状態を相談することで、より安全で効果的な時期を選ぶことができます。


まとめ

  • 去勢は「早ければ良い」ではなく、「成長が安定した時期に行う」のが理想
  • 出生から半年未満での去勢は、骨やホルモンバランスに影響を与える可能性がある
  • 犬種・性格・生活環境を考慮し、獣医師と相談して最適なタイミングを決めよう

補足:最新の考え方
近年の学会やガイドライン(AAHA, AVMA など)でも、「犬種や体格に応じた去勢時期の個別判断」が推奨されています。
つまり、「すべての犬に同じ時期が最適とは限らない」という時代に変わってきているのです。

LINE友だち追加で診察予約、病院の最新情報はinstagramからチェックできます!!



  


茅ヶ崎市・藤沢市エリアで病気の予防関連でお困りの方は湘南ルアナ動物病院(湘南Ruana動物病院)までお気軽にご相談ください。