【犬・猫が吐く】緊急性の高い急性嘔吐と受診の目安

犬や猫が吐くことは決して珍しいことではありません。
しかし、「様子を見ても大丈夫な嘔吐」と「すぐに病院へ行かなければ命に関わる嘔吐」を見分けることは知っていなければなかなか難しい話です。
今回の記事は、「昨日までは普通に生活していたのに、今日、急に嘔吐してしまった。」そういった条件の嘔吐について緊急性の高い症状から順番に、「うちの子は病院へ行くべき?」という視点で解説します。
緊急性の高い嘔吐を詳しく知りたい方へ
緊急性の高い急性嘔吐の原因として多い病気を、個別に詳しく解説しています。
「うちの子はどれに当てはまる?」という視点で、気になるものからご覧ください。
①大型犬・ミニチュアダックス × 吐きたくても吐けない・お腹が膨らむ
→ 胃拡張捻転症候群の可能性が考えられます。
▶︎胃拡張捻転症候群について詳しく見る
②固いもの(ジャーキーや果物など)を食べた直後 × 吐きたくても吐けない・クチャクチャする
→ 食道閉塞の可能性もあります
▶︎ 食道閉塞について詳しく見る
③嘔吐+虚脱+口の中がヌルい
→腹腔内出血の可能性も考えられます。
▶︎脾臓血管肉腫について詳しく見る
④嘔吐+ギャンと鳴いて後ろ足を引きずる(特に猫)
→ 動脈血栓塞栓症の可能性があります。
▶︎猫の動脈血栓塞栓症について詳しく見る
⑤嘔吐+尿が出ない・何度も排尿姿勢をとる(特に雄猫)
→ 尿道閉塞の可能性があります。
▶︎雄猫の尿道閉塞について詳しく見る
⑥未避妊動物 × 嘔吐+α(お水をよく飲む・食欲不振・下痢など)
→子宮蓄膿症の可能性も考えられます。
▶︎子宮蓄膿症について詳しく見る
⑦時間をおいて1日に複数回嘔吐する場合
→ 急性膵炎や腸閉塞など詳細な検査が必要な疾患の可能性があります
▶︎急性膵炎について詳しく見る
▶︎腸閉塞について詳しく見る
※気になる項目があれば、先に詳しいページをご覧ください
犬猫の急性嘔吐とは?
「昨日までは普通に生活していたのに、今日急に吐いてしまった。」
そんな経験はありませんか?
急性嘔吐とは、数時間〜数日以内に突然起こる嘔吐のことを指します。
原因はさまざまで、一時的な胃の不調や空腹による嘔吐(胆汁嘔吐症候群)のように比較的軽症で経過するものもあれば、胃拡張捻転症候群や腸閉塞、急性膵炎など、早急な治療が必要な病気が隠れていることもあります。
つまり、「吐いた」という症状だけでは、様子を見てもよいケースなのか、それとも命に関わる病気なのかを判断することはできません。
そのため、「何を吐いたか」もですが、「どのように吐いているか」「吐く以外にどんな症状があるか」を確認することが非常に重要です。
犬猫の緊急性の高い急性嘔吐の特徴
犬:吐きたくても吐けない
いわゆる「空嘔吐」の状態です。オエオエとえずくものの、泡や少量の胃液しか出てこない、あるいは全く何も吐けない状態を指します。
このような症状は、胃の内容物を外へ出せない状態を示している可能性があり、注意が必要です。
ただし、一度しっかりと胃の内容物を吐いたあとに空嘔吐が続く場合とは区別して考える必要があります。
嘔吐した直後は吐き気(悪心)がしばらく残るため、胃の中が空になっていてもオエオエとえずくことは珍しくありません。
ここでいう「吐きたくても吐けない」とは、最初から胃の内容物がほとんど出ず、何度もえずき続ける状態を指します。
この場合、胃拡張捻転症候群や食道閉塞などの緊急性の高い病気が疑われます。
どちらの病気でも吐き気が強いため、口をクチャクチャさせる、よだれが多い、落ち着きなく歩き回るといった症状を伴うことがあります。
特に胃拡張捻転症候群は、大型犬やミニチュア・ダックスフンドで発症しやすいことが知られています。これらの犬種で、吐けない状態に加えてお腹が膨らんできた、特に左側のお腹が張っているようであれば、疑いはさらに強くなります。
いずれの病気も時間の経過とともに急速に悪化する可能性があります。「吐きたくても吐けない」という症状がみられた場合は、様子を見ず、できるだけ早く動物病院を受診してください。
▶︎胃拡張捻転症候群について詳しく見る
▶︎ 食道閉塞について詳しく見る
犬:吐いた直後に虚脱、口の中が ”ぬるい”
犬が嘔吐した後に、一時的に元気がなくなり、ぐったりする事はあります。これは吐き気や体力の消耗による一時的な反応で、必ずしも異常とは限りません。
一方で、呼びかけへの反応が鈍い、ふらつく、意識がぼんやりしているような場合は、「虚脱」と呼ばれる状態の可能性があります。
虚脱とは、何らかの原因で急激に血圧が低下し、全身へ十分な血液を送れなくなっている危険な状態です。
その原因の一つが腹腔内出血です。脾臓の腫瘍(血管肉腫など)が破裂した場合には、昨日まで元気だった犬が突然嘔吐し、そのまま虚脱を起こすことがあります。
腹腔内出血では歯茎が白くなることがありますが、必ずしも全ての犬で認められるわけではありません。
そこで、私自身が診察で重視している所見の一つが、口の中の温かさです。健康な犬の歯茎や舌は温かく感じられますが、血圧が低下している犬では冷たく感じたり、「いつもよりぬるい」と感じたりすることがあります。もちろん、これは飼い主さんが確定的に使える所見ではありませんが、「お口の温かさがいつもと明らかに違う」と感じた場合は重要なサインになることがあります。
「嘔吐したあとに虚脱」「口の中が冷たい、あるいは普段よりぬるく感じる」といった症状がみられる場合は、腹腔内出血など命に関わる病気が隠れている可能性があります。様子を見ず、できるだけ早く動物病院を受診してください。
猫: "ギャン" と鳴いた後に嘔吐し、足を引きずる
猫が突然「ギャン」と大きな声で鳴いた直後に嘔吐し、後ろ足を引きずったり立てなくなったりした場合は、動脈血栓塞栓症を強く疑います。
この病気は、主に心臓の中でできた血栓が後ろ足へ向かう太い動脈に詰まることで発症します。血流が急に途絶えるため、激しい痛みを伴い、大きな声で鳴くことがあります。
また、猫は強い痛みや急激なストレスを受けると、嘔吐という形で症状が現れることも少なくありません。
そのため、「ギャン」と鳴かずに突然嘔吐し、その後に後ろ足へ力が入らず引きずるような歩き方になるケースもあります。
さらに、血栓が詰まった足は血流が失われるため、引きずる足の肉球が冷たくなることも、この病気を疑う重要な手がかりです。
動脈血栓塞栓症は、発症からの時間によっては血栓溶解療法などの治療が検討されることもあります。また、時間が経つほど筋肉や神経へのダメージは大きくなります。
「突然の嘔吐」と「後ろ足の異常」が同時にみられた場合は、動脈血栓塞栓症を疑い、一刻も早く動物病院を受診してください。
雄猫:何度も排尿姿勢をとるが尿がほとんど出ず、嘔吐する
雄猫が何度もトイレへ行って排尿姿勢をとるのに、尿がほとんど出ない場合は、大きく分けて2つの可能性があります。
1つは、尿道に結石や結晶などが詰まり、尿が出せなくなっている「尿道閉塞」です。
もう1つは、膀胱炎による残尿感や尿意によって、何度も排尿姿勢をとっている状態です。
この2つは見た目だけでは区別が難しいことがありますが、嘔吐を伴っている場合は尿道閉塞の可能性が高くなります。
尿道閉塞では、排泄できなくなった老廃物やカリウムが体内に蓄積し、急性腎障害や高カリウム血症を引き起こします。その結果、食欲不振や嘔吐、元気消失などの症状が現れ、さらに進行すると命に関わる不整脈を起こすこともあります。
本来は、「何度も排尿姿勢をとるのに尿が出ない」という段階で受診することが理想です。しかし、そこに嘔吐まで加わっている場合は、すでに全身状態へ影響が及んでいる可能性があります。
特に雄猫で、「尿が出ない」と「嘔吐」が同時にみられる場合は、様子を見ず、一刻も早く動物病院を受診してください。
未避妊動物が嘔吐を主体に様々な症状が見られる
未避妊のメス犬・メス猫では、子宮蓄膿症という命に関わる病気にも注意が必要です。
子宮蓄膿症では「水をたくさん飲む・尿の量が増える(多飲多尿)」が代表的な症状として知られていますが、ご家庭では気付きにくいことも少なくありません。そのため、実際には「嘔吐した」「食欲がない」「元気がない」といった一般的な症状を主訴に来院されるケースも多くあります。
特に閉塞性子宮蓄膿症では、陰部から膿が出ないため外見だけでは判断が難しく、超音波検査などの画像検査を行わなければ診断できないこともあります。
子宮蓄膿症を放置すると、敗血症や子宮破裂などの重篤な状態に進行する危険があります。未避妊のメス犬・メス猫が嘔吐し、食欲低下や元気消失などの症状を伴う場合は、できるだけ早く動物病院を受診しましょう。
時間を空けて何度も嘔吐する
「何回も吐きました」という主訴で来院されるケースは非常に多くあります。
ここで区別したいのは、1回吐いたあとに続けて何度もえずく場合と、数時間おきに嘔吐を繰り返す場合です。
前者では、嘔吐した直後は吐き気(悪心)がしばらく続くため、胃の中が空になっていてもオエオエとえずくことは珍しくありません。この場合は、1回の嘔吐に伴う反応としてみられることがあります。
一方で、数時間空けて嘔吐を繰り返す場合は注意が必要です。
「昨日までは元気だったのに、今日は朝から数時間おきに何度も吐いている」という場合には、急性膵炎や腸閉塞などの急性疾患や、糖尿病性ケトアシドーシス、腫瘍性疾患など、それまで水面下で進行していた病気が急激に症状として現れた可能性も考えられます。
このようなケースでは、一見すると元気が残っていることもありますが、積極的な検査や治療が必要となる病気が隠れていることも少なくありません。時間を空けて何度も嘔吐を繰り返す場合は、「元気があるから大丈夫」と自己判断せず、できるだけ早めに動物病院を受診しましょう。
▶︎急性膵炎について詳しく見る
▶︎腸閉塞について詳しく見る
▶︎糖尿病性ケトアシドーシスについて詳しく見る
どのような検査をおこなうか?

急性嘔吐に対する診療の進め方は、動物病院によって異なります。
当院では、まず身体検査による初期トリアージを最も重要視しています。意識レベル、呼吸や循環の状態、粘膜色や温度感、腹部の張りや脈圧などを確認し、緊急性の高い状態かどうかを迅速に判断します。
特に、本記事でご紹介したような緊急性の高い症状がみられる場合は、飼い主様から詳しくお話を伺うよりも先に、血液検査や画像検査、点滴などの緊急処置を優先することがあります。
一方で、重症度が低いと判断された場合でも、当院ではFAST(迅速超音波検査)を全例で実施しています。短時間で腹腔内の異常を確認できるため、腹水や消化管の異常、腫瘤、子宮の異常など、身体検査だけでは分からない病変を見逃さないためです。
その後、身体検査やFASTの結果を踏まえ、必要に応じて血液検査、レントゲン検査、詳しい超音波検査などを追加し、それぞれの動物に合わせた診断・治療を進めていきます。
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