犬の健康維持は腸内環境から!腸活に必要なプロバオティクスについて
近年、腸内環境の維持が人だけではなく動物においても全身の健康に大きく寄与することが広く知られるようになり、犬の「腸活」に注目が集まっています。その中でも特にプロバイオティクスが注目されています。本記事では、プロバイオティクスがワンちゃんにどのように役立つのか、その効果や使い方について詳しく説明します。
プロバイオティクスとは?
プロバイオティクスは、腸内環境を整える「善玉菌」そのものを積極的に取り込む事を言います。健康を整える善玉菌の代表としては乳酸菌やビフィズス菌、酪酸菌があります。これらの菌が「発酵」する事によって、生体にとって有益な物質を生産します。
発酵とは、「酸素が存在しない条件(←ここ大事!)」で、糖質などを分解して菌がエネルギーを獲得する過程を言います。
善玉菌が腸内環境へ与える影響
乳酸菌やビフィズス菌が発酵するとその産物として「乳酸」が生成されます。ビフィズス菌や酪酸菌が発酵するとその産物として「短鎖脂肪酸(酪酸・酢酸・プロピオン酸)」が生成されます。これらの産生物質が、腸内環境を整える上で重要となります。
善玉菌の発酵産物が与える効果
乳酸菌やビフィズス菌が発酵する事により得られた乳酸は
- ビフィズス菌や酪酸菌などの善玉菌が「乳酸」を基にして「短鎖脂肪酸を生成」する。
- 免疫細胞を直接適度に活性化し、適切な免疫応答を促進する。
といった効果を発揮します。
特に腸内の「免疫の監視塔」とも呼ばれるパイエル板(小腸のリンパ組織)に良い影響を与えるそうです。
ビフィズス菌や酪酸菌が発酵する事により得られた短鎖脂肪酸(酪酸・酢酸・プロピオン酸)は
- 腸粘膜内における制御性T-cell(Treg細胞)の分化を誘導し過剰な腸炎の制御をする
- 回腸や上行結腸に存在するL細胞の短鎖脂肪酸受容体を刺激し、腸管上皮増殖促進因子を活性→粘膜を増殖させる、バリア機能を強化する。
- リーキーガット(腸の透過性が高まる状態)を防ぎ、腸壁の健康を保つ
- 大腸粘膜のエネルギー源(腸粘膜に必要なエネルギーの60~80%)となる。
といった効果を発揮します。
酪酸によって活性化された制御性T-cell(Treg細胞)はアレルギー性皮膚炎を引き起こすTh2-cellの活性を抑制する事で、皮膚炎を緩和する効果が期待されています。
また、乳酸と短鎖脂肪酸の両方の効果として
- 腸内pHを下げる事で(酸性にすることで)、腸内酸素レベルを下げ、善玉菌有利な環境を作りあげる。
- 腸内pHを下げる事で(酸性にすることで)、アルカリ性環境で増殖しやすい悪玉菌の増殖を抑える。
- 消化酵素の働きを助け、栄養素の吸収を効率よく行えるようにサポートする。
- 特に炭水化物や脂肪の消化がスムーズに進み、エネルギー効率が向上する。
などが期待されます。
バックナンバー:腸活する上で知っておきたい!腸内酸素とディスバイオシスの関係について
善玉菌の菌体が与える効果
このように善玉菌が発酵して産生される乳酸や短鎖脂肪酸も大切ですが、「菌体」(菌そのものの体)自体も腸内の免疫を適度に刺激し、身体にとって有益な免疫機能を調整してくれます。腸は全身の免疫機能の約70%が集まる重要な免疫器官であり、善玉菌の菌体がその機能を調整・強化する役割を果たしています。善玉菌の菌体は生菌(生きた菌)でも死菌(死んだ菌)でも免疫に影響を与える事ができます。腸管には、病原菌や異物を排除するための免疫系が備わっており、善玉菌の菌体が腸内に届くと、これが腸壁の免疫細胞に認識されます。この刺激により、腸管免疫が活性化し、抗体(IgA)の生成が促進され、病原菌やウイルスの侵入を防ぐ働きが強化されます。また、特定の抗炎症性サイトカイニン(IL-10など)の生成を促し、炎症性サイトカイニンの過剰分泌を抑えることで、慢性炎症や腸疾患を予防します。
その他の効果
迷走神経を介した腸-脳の信号伝達
迷走神経は、腸と脳を繋ぐ主要な神経経路で、腸内での変化が脳に直接影響を与えます。善玉菌が腸内に多く存在すると、短鎖脂肪酸の生成により、炎症や腸内の不調が減少し、脳に送られるストレスシグナルも減少します。この結果、交感神経の過剰な活動が抑制され、副交感神経が優位になります。
ホルモンと神経伝達物質の調整
善玉菌の一種であるビフィズス菌は腸内でセロトニンやGABA(γアミノ酪酸)などの神経伝達物質の生成を促進します。セロトニンは気分を安定させ、副交感神経の活動を高める作用があります。GABAは神経興奮を抑える働きを持ち、リラックス状態を促します。これらの神経伝達物質が適切に生成されることで、自律神経のバランスが整い、ストレス耐性が向上します。
プロバイオティクスサプリの選択
上記の通り、これら善玉菌を積極的に摂取する事が大切になります。ただ闇雲にプロバイオティクスを摂取すれば良い訳ではありません。生きた善玉菌は熱や強い酸に弱く、胃酸や熱によって多くが死滅してしまいます(死滅した菌自体も腸内細菌の栄養にはなりますが…)。死んだ善玉菌は胃酸や熱の影響はありませんが、生きた善玉菌ほどの効果は発揮しません。そのため、プロバイオティクス製品を選ぶ際は「目的に合った製品であること」「ちゃんと大腸まで届けられる製品であること」かどうかを見極める必要があります。
プロバイオティクスの種類
プロバイオティクスを選択する上での基本は、生菌製剤(生きた善玉菌)を用いるか、死菌製剤(死んだ善玉菌)を用いるかという事です。この2つの特性を理解した上で使い分けして頂く事が大切です。
生菌:生きた菌
文字通り生きているため、腸内の構成メンバーに影響を与えます。生きた乳酸菌は抗菌活性の働きがあり、悪玉菌の増殖を抑制する効果や腸内環境の改善に直接的に貢献します。腸内の善玉菌がほぼ枯渇している場合など、多数の善玉菌が必要な際には積極的な摂取が必要となります。ただし十分な効果を得るには複数種類の善玉菌を高濃度で継続的に摂取する必要があります。オリゴ糖などのプレバイオティクスとの併用で大きく効果が向上するため、併用は必須となります。
生菌のメリット | 生菌のデメリット |
腸粘膜バリア機能の強化 | 生きて腸まで届かせる工夫がされているため高額 |
免疫調整機能 | 温度や胃酸の影響を受ける(何割かは途中で死菌となる) |
抗菌活性により悪玉菌対策に貢献 | 抗生物質の影響を受ける |
生菌を選ぶポイントとしては
- 熱や酸に抵抗性のある処置がされている菌かどうか(有胞子性菌など)
- 生菌としての取り扱い方が十分か?(冷蔵保存など)
- 菌株が有益かどうか
- 菌数が十分かどうか
など、数あるプロバイオティクス製品の中でも上記の点は注意して選ぶ必要があると思います。例えば、有胞子性菌は胞子(芽胞=殻)を作ることができる菌で、酸や熱や乾燥に強く生きて腸まで届き働くよう工夫がされています。一方でこういった菌はその培養に手間がかかるため、費用が高くなる傾向にあります。有胞子性でない生菌は、熱に弱いため、冷蔵保存などの指定があるかと思います。こういった生菌製剤の場合には、ある程度菌数がいないと生きて腸まで届く事ができないので、菌数も十分に考慮する必要があります。
当院では、腸内の善玉菌の構成比率や多様性を検査する腸内フローラ検査を実施しています。詳しくはこちらをご覧ください。
死菌:死んだ菌
死菌は乳酸菌などの死骸です。パラプロバイオティクスとも言います。もともと腸内にいる善玉菌の餌となる事や、腸壁にとりついて免疫を適度に刺激する事で得られる効果を期待します。死菌は製造や管理のしやすさから、単価が安く同じ価格でも多量を摂取できるメリットがあります。ただし生菌剤とはそもそもの働きが異なるため、菌数で比較するのはミスリードとも言えます。
死菌のメリット | 死菌のデメリット |
免疫調整機能や残存する善玉菌の餌となる効果 | 腸内環境の悪化がひどい場合には力不足(あくまで補助的存在) |
単価が安い | 生きて働くわけではない(乳酸や短鎖脂肪酸を直接的には生成しない) |
胃酸の影響を受けない |
死菌を選ぶポイントとしては
・まず、腸内環境がある程度整っている事が前提
・菌数ではなく、どんな菌を用いているか?どのような効果を期待しているか?
といった事を気にすると良いかと思います。死菌だからこそ、もともと善玉菌数が絶対的に少ない環境下ではその効果を十分に発揮することはできません。ある程度の菌数・菌種が保たれている環境下で、初めて善玉菌の餌となる効果を発揮します。
プロバイオティクスを始める上での注意点
これらプロバイオティクス製品は、摂取しただけでは腸内に定着せず、そのほとんどが便として排泄されてしまいます。そのためにプロバイオティクスは継続的に摂取し続ける必要があります。また、継続的に摂取した場合、腸内環境が安定化するまで1~2ヶ月は要すると言われています。
取り入れた善玉菌をより効率良く腸内に定着させるか…
その方法がプレバイオティクスという考えになります。
これに関連して次回の記事でお話したいと思います。
藤沢、茅ヶ崎エリアで、愛犬の腸活についてもっと詳しく知りたい方は、湘南Ruana動物病院までご連絡ください。