繰り返す吐き気には気をつけて!犬猫の腸閉塞について
犬や猫は私たちの大切な家族の一員ですが、彼らが健康であるためには注意深く観察し、適切なケアを行うことが重要です。その中でも特に注意が必要なのが「腸閉塞」という状態です。腸閉塞は、消化管が部分的または完全に閉塞し、食物や液体が正常に通過できなくなる状態を指します。ここでは、犬猫の腸閉塞について、その原因、症状、治療法を詳しく解説します。
腸閉塞(イレウス)とは?
腸閉塞(イレウス)は、異物や腫瘍などにより腸管が物理的に塞がれた状態(機械的イレウス)、あるいは腹膜炎や血行障害(虚血、血栓など)や麻痺などにより腸の蠕動運動が阻害された状態(麻痺性イレウス)を指します。
この記事では、腸閉塞の中でも機械的イレウスについて触れていきたいと思います。
腸閉塞(機械的イレウス)の原因
犬猫の腸閉塞(機械的イレウス)の原因には以下のものが挙げられます。
※手術中の画像が含まれます。
▼異物による閉塞
特に好奇心旺盛な犬や猫は、おもちゃや衣類や紐、プラスチック片などの異物を飲み込む事があります。これらが腸に詰まると、閉塞を起こす事があります。
【紐状異物の誤食により徒然となった腸管】
▼腫瘍・肉芽腫・狭窄症などによる閉塞
消化管の代表的な腫瘍性疾患として、腸腺癌、リンパ腫、GIST(犬)、ESF(猫)、平滑筋腫瘍、稀なものとして肥満細胞腫などが挙げられます。その中でも特に腸腺癌は内腔方向に増大する傾向があるため閉塞を起こしやすいです。また、非腫瘍性疾患として繊維狭窄症も閉塞を引き起こします。肉芽腫性病変として、化膿性肉芽腫性腸炎や脂肪肉芽腫性リンパ管症などありますが、これらの病変で物理的な閉塞を引き起こす事は稀です。
【病理検査で脂肪肉芽腫性リンパ管炎と診断のあった症例】
▼腸捻転・腸重積・嵌頓ヘルニア
大型犬で稀な疾患として腸捻転(腸が捻れてしまう状態)が認められます。また、度重なる下痢(特に若齢動物)などにより、腸が腸に食い込む腸重積を引き起こすことがあります。臍・鼠径・会陰ヘルニアに腸管が絞扼される嵌頓ヘルニアでも機械的イレウスは生じます。
【重積を起こしている腸管】
腸閉塞(機械的イレウス)の症状
一概にして嘔吐が認められます。これは消化物が物理的な閉塞により腸内をスムーズに移動できなくなり、閉塞部位より上部(口側)に多量の消化物が溜まるためです。そのため消化物やガスが腸内に充満し、嘔吐や食欲不振や腹痛などの症状が起こります。これに気づかず放置すると、圧排により腸壁への血流が遮断され、腸壁の虚血・壊死、やがては腸穿孔を引き起こし最悪の場合は死に至ります。
腸閉塞(機械的イレウス)の診断
機械的イレウスの診断は以下の手順に沿って行われます。
▼問診・稟告
飼い主様からの情報は重要です。特に嘔吐した物や色や量、嘔吐した時間や回数、最後に食べた物やその時間といった情報は大切です。例えば、昨日の夕方に食べたものをそのまま今朝にまとめて吐いたなど…通常の蠕動運動の場合、6時間程〜で胃から排泄されるので、未消化のままの嘔吐だと、消化管が何らかの影響で動いていない状態と伺えます。
▼身体検査
紐状異物を誤食した場合、口の中に糸の端っこが残っている事があります。また、小型犬や猫ちゃんの場合、十分な腹部触診で異物の触知が可能な事もあります。
▼レントゲン検査
異物の確認、mass effect、腸管の拡張(鬱滞)、腹水・腹膜炎の有無の予測、穿孔の有無などを確認します。
金属製異物や砂や石、種子などの異物はレントゲンで直接確認する事もできます。閉塞を疑う所見はいくつかありますが、最大腸管径と腰椎の比較、最大腸管径が1.6cmを超えるかどうか、2つ以上の拡張した腸管が並んで見えるか、砂ずり状(グラベル)所見の有無などあります。
▼超音波検査
超音波検査で見える多くの異物は、腸管内に認められる後方クリーンシャドーを伴う高エコー物として認められます。ただし、異物がある=腸閉塞と直感的に判断するのではなく、異物が閉塞を起こしているかどうかは切り離して考える必要があります。異物より上部(口側)の腸管内に液体や消化物が鬱滞している場合は閉塞を起こしている事を疑う所見になります。
▼血液検査
血液検査で直接的に腸閉塞を疑う所見はありません。しかし、全身状態の把握や他疾患の除外を行う上で重要ですので、必須となる検査です。
腸閉塞(機械的イレウス)の治療法
機械的イレウスの治療は、原因や閉塞の程度によって異なります。
外科治療
ソースコントロールの概念では外科手術が第一選択となります。治療に迷うなら状態が悪化する前に勝負した方が勝率が高いという考えです。腸閉塞が長期化すると、腸管への血行不良が生じ、腸穿孔のリスクが高くなります。外科手技は腸管の状態に応じ、腸切開(腸管を切り開き異物を摘出する)もしくは腸切除(腫瘍性の場合や、腸の壊死や穿孔がみられる場合に、その領域の小腸ごと摘出する)をおこないます。
▼手術中の画像があります
内科治療
閉塞が軽度である場合や、異物を認めるが閉塞所見に乏しい場合には、期間を決めた上で内科的治療・観察をおこなう事もあります。また、「砂の誤食」による閉塞に対しては、早期的な外科介入により逆に厄介となるケースもあるので、これも期間を決めた上で内科的治療・観察を実施する場合があります。
フォローアップ
手術後は4〜5日が最もリーク(縫合した腸が離開して内容物が漏れる)しやすくなるので、その期間を過ぎるまでは動物病院で集中的な管理が必要となります。
また、誤食する子はそれが癖付いていることもあるので、再発防止のために飼い主様には気をつけて頂く必要があります。具体的には小さな玩具や食べてはいけないものを犬猫の手の届かない所で保管してもらったり、万が一誤食した場合にはすぐに動物病院へ受診するように心がけましょう。また、消化管腫瘍や肉芽腫については偶発的に見つかる事もあります。早期発見につながるよう、定期的に動物病院で健康診断(画像検査)を受けましょう。
まとめ
犬猫の腸閉塞は、放置すると命に関わる重大な問題です。異物の誤飲や腫瘍などさまざまな原因があるため、早期診断と適切な治療が重要です。飼い主としては、日頃から愛犬や愛猫の様子に気を配り、異変を感じたらすぐに獣医師に相談することが大切です。愛するペットの健康を守るために、日々のケアを怠らないようにしましょう。
藤沢・茅ヶ崎エリアで、消化器症状にお悩みの時は湘南Ruana動物病院までご相談ください。