猫の尿管閉塞と緊急対応:腎婁チューブ設置の必要性

猫ちゃんは若齢期と高齢期に病気が多く、成猫期はあまり病院にかかる事が少ない印象です。しかしながら尿路系の問題は成猫期でも比較的多くみられ、症状によっては猫ちゃんにとって非常に深刻な状況を引き起こすことがあります。尿管閉塞はその一つで、適切な対応が求められます。本記事では、猫の尿管閉塞について、症状や原因、緊急対応としての腎婁チューブ設置の必要性について詳しく解説します。

尿管閉塞とは?

腎臓で作られた尿は、「尿管」を通り膀胱に溜められます。膀胱で一定以上溜まった尿は「尿道」を通って排泄されます。この腎臓→膀胱までの管(尿管)に腎臓から落ちた結石が詰まると尿管閉塞を引き起こします。これにより、尿の流れが妨げられ、腎臓に悪影響を及ぼします。人や犬よりも猫ちゃんの尿管はデリケートで、ほんの数ミリの結石でも尿管を完全に閉塞する事があります。完全に閉塞すると腎臓が機能不全に陥り、非常に危険な状態になります。

中には生まれつき尿管が細い子もおり、そういった子は小さな細胞破片のようなものでも尿管閉塞を起こす事があります。

主な症状

尿管閉塞を強く疑う特徴的な症状はありませんが、著者の経験上、尿管閉塞で来院する際に最も多い主訴(症状)は「頻回嘔吐」だと感じます。尿管に結石が詰まるとかなり強い痛みが生じるようで、これに伴い嘔吐するものと思われます。また、閉塞により急性腎障害に至る事で、尿毒素が蓄積し、悪心(気持ち悪さ)が生じて嘔吐を繰り返します。そのために、「食欲不振」や「なんとなく元気がない」といった症状も併せて見られる事もあります。膀胱結石やこれに伴う膀胱炎を併発している事もあるので、「頻繁にトイレに行く」「痛みを伴う排尿」なども見られる事があります。

尿管閉塞の診断

尿管閉塞を診断する上では以下の検査を実施します。

▼血液検査

全身状態の把握に必須です。特にBUN、Cre、電解質、Ca、Pなどの項目では腎機能を評価します。

▼レントゲン検査

腎臓のサイズや形、腎臓辺縁のディテール、後腹膜腔の均質性などを評価します。また、尿管結石の場合にはこれが確認できる事もあります。

【両側尿管閉塞が見られた猫のレントゲン画像】

▼超音波検査

直接的な診断ツールとしては超音波検査が最適です。腎臓のサイズ、腎盂の状態(腎盂の拡張)、尿管の状態(尿管粘膜のボソボソ感や結石の位置など)、後腹膜腔の状態(液体貯留の有無など)を評価します。

【尿管閉塞の猫の超音波検査】

【尿管閉塞の猫の超音波検査】

▼尿検査

尿路感染の有無や腎機能の評価として実施します。

緊急対応の必要性

尿管閉塞は放置すると急速に症状が悪化するため、緊急対応が必要です。特に尿の流れが完全に閉塞されてしまった場合、急速に腎臓がダメージを受け、命に関わる事態になることもあります。

腎婁チューブの設置

腎婁チューブ設置は、腎臓に直接チューブを挿入し、尿を体外に排出するための処置です。この緊急処置により、腎臓への負荷を早急に軽減する事ができます。腎婁チューブ設置が尿管閉塞時に必要とされる理由は以下のものが挙げられます。

  • 尿の排出:尿が腎臓に溜まるのを防ぎ、腎臓の機能を温存する
  • 疼痛緩和:尿の流れが改善されることで、猫ちゃんの痛みを軽減する
  • 治療の選択肢を広げる:腎婁チューブを設置する事で、腎機能を温存し、結石を取り除く手術や他の治療法を計画する時間が得られます

腎婁チューブの設置手術は①経皮的チューブの設置②開腹下でのチューブ設置の2つ方法がありますが、特に制限する要因がなければ、②開腹下でのチューブ設置の選択の方が利点が多いため当院では開腹下でのチューブ設置を行なっております。

経皮的チューブの設置開腹下でのチューブ設置
手技超音波検査でガイドして皮膚から細いチューブを挿入する開腹して腎臓を露出して確実に中太のチューブを挿入する
メリット・お腹を切らずに軽度の鎮静条件で処置ができる
・全身麻酔リスクの高い患者に有効
・比較的短時間の手術
・太めのチューブを目視して確実に挿入する事ができる
・経皮的チューブと比較すると詰まるリスクが低い
・軽度の腎盂拡張でも実施が可能
デメリット・十分な腎盂の拡張がないと実施が難しい
・細いカテーテルを用いるので、処置後に詰まる・抜けるリスク
瀕死の状態だと麻酔のリスクが高くなる

猫の腎婁チューブ設置

腎婁チューブ設置後の管理

腎婁チューブ設置後は特別なケアが必要なため、病院での入院管理となります。この期間中に、尿管閉塞に対する治療計画を立てたり、救済した腎臓の機能を評価したりします。また、チューブを設置することで尿管および腎臓への負担が下がり、中にはこの期間中に閉塞が解除されるケースもあります。入院期間中は特に以下の点に注意して管理しています。

チューブの定期的なチェック:チューブの位置や排尿の状態を確認します。

感染予防:チューブを清潔に保ち、感染症のリスクを減らす。

尿管と腎臓の保護:腎血流を維持するために持続点滴をして、尿管の痙攣や炎症や疼痛を抑えるためにステロイド、ブチルスコポラミン、プラゾシン、ブプレノルフィンなどを投与します。また、食欲が落ちている子にはミルタザピンなどの食欲増進剤も投与します。

まとめ

猫の尿管閉塞は、非常に危険な状態ですが、早期発見と適切な緊急対応があれば、腎機能を温存することができます。腎婁チューブは、その一つの手段として重要な役割を果たします。愛猫の健康を守るためには、日頃からの観察と、異常を感じた際にはすぐに獣医師に相談することが肝要です。健康で幸せな猫ライフを送るために、適切な知識を持ち、行動することが大切です。

藤沢・茅ヶ崎エリアで、猫ちゃんの頻回嘔吐でお悩みの時は湘南Ruana動物病院までご相談ください。

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