FIP(ウェットタイプ)に類似する疾患について

猫伝染性腹膜炎(FIP)は、猫にとって非常に危険で致死的な疾患であり、飼い主様にとっては「FIP」と診断される事は余命宣告を受ける事と同じ気持ちになるかと思います。
それ故に、獣医師にはより的確な診断力が求められます。FIPは猫コロナウイルス(FCoV)の体内変異が原因とされており、腹水や胸水が蓄積する「ウェットタイプ(湿性型)」と肉芽腫性炎症を発生させる「ドライタイプ(乾性型)」に分かれます。胸水や腹水の貯留はFIP(ウェットタイプ)以外にも様々な疾患が原因で認められます。この記事ではFIP(ウェットタイプ)以外で胸水や腹水が貯留する疾患について解説します。

FIP(ウェットタイプ)の特徴

FIP(ウェットタイプ)ではマクロファージに感染したコロナウイルスが炎症反応を引き起こします。ウイルスに対する免疫反応として、抗体とウイルスが結びついて免疫複合体を形成します。これらの免疫複合体は、血管内皮に沈着し、炎症を引き起こします。この炎症反応が血管の透過性を増加させ、血漿成分(タンパク質や水分)が血管外に漏れ出すことになります。この漏れ出した液体が腹腔や胸腔に貯まり、腹水や胸水を引き起こします。またウイルスに感染したマクロファージは、サイトカイン(炎症を引き起こす物質)を分泌します。これが全身的な炎症反応を引き起こし、血管の透過性を増大させ、さらに液体が漏れ出します。腹腔や胸腔に液体が貯まる原因として、炎症による血管内皮の損傷とそれに伴う漏出が直接的な要因となります。

ウェットタイプのFIPで貯まる液体は、通常、タンパク質や細胞成分を多く含む滲出液です。これは炎症反応に伴う血管の透過性増加によって血漿タンパク質が漏れ出した結果です。この滲出液は、腹水や胸水として観察されます。

猫において胸水や腹水が貯留する原因は、FIP(ウェットタイプ)以外にも多岐にわたります。胸水や腹水の貯留は、通常、体内の液体のバランスが崩れることによって引き起こされます。以下は、FIP以外で猫に胸水や腹水が貯留する代表的な疾患や状態です。

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FIP(ウェットタイプ)以外で胸水や腹水が貯留する疾患

心疾患

  • 心不全(特に左心不全や右心不全)
    • 肥大型心筋症や拘束型心筋症などにより血液がうっ滞することで胸水や腹水が貯留することがあります。心臓病の進行に伴い、肺水腫が見られることもあります。

【心原性肺水腫と胸水貯留】

  • 心膜疾患(心膜炎や心膜腫瘍)
    • 心膜に炎症が起こると、心膜腔に液体がたまることがあり、これが胸水として認識されます。また、心膜に腫瘍ができることもあり、これが液体の貯留を引き起こす原因となることがあります。

肝疾患

  • 肝硬変(肝臓疾患による腹水)
    • 肝臓の障害(例えば、肝硬変、肝炎、脂肪肝など)によって、肝臓の繊維化が進み、肝臓が固くなる事で、血管内の圧力が変化し(門脈圧亢進)、腹腔内に液体が漏れ出して腹水が貯まることがあります。また肝機能の低下により血液のタンパク質濃度が低下し、腹水が助長されることもあります。
  • 肝腫瘍(特に悪性腫瘍)
    • 肝臓に腫瘍(例:肝細胞癌、胆管癌)が発生すると、血液循環が乱れ、血漿成分が腹腔に漏れ出すことがあります。

腎疾患

  • 慢性腎不全
    • 腎不全が進行すると、血液中の老廃物や水分のバランスが崩れ、浮腫や腹水が生じることがあります。また、この際の過剰輸液により、腎臓が適切に水分を処理しきれなくなるために腹水や胸水が貯留することもあります。

腫瘍(がん)

  • 腹腔内腫瘍(例:腹膜中皮腫、リンパ腫、胃腸系腫瘍)
    • 腹腔内に発生した腫瘍(特に腹膜や内臓に関係するもの)が原因で、腫瘍周囲の血管が圧迫され、腹水が貯まることがあります。また、腫瘍の腹膜播種によるがん性腹膜炎に伴い、腹水が貯留することがあります。
  • 胸腔内腫瘍(例:肺腺癌、リンパ腫)
    • 胸腔内に腫瘍が発生することでも、胸水が貯留することがあります。特に、悪性腫瘍は胸腔内に液体を引き寄せることがあります。猫で胸水貯留を引き起こす疾患は、胸腔内腫瘍、心原性が圧倒的に多く、その他のものとして膿胸・乳糜胸が続きます。

感染症

  • 胸膜炎(細菌性、真菌性、ウイルス性)
    • 感染経路が不明な場合もありますが、胸膜に感染が広がると、炎症を引き起こし、胸水(膿胸)が貯留することがあります。
  • 腹膜炎(細菌性、真菌性、ウイルス性)
    • 特に消化管穿孔に伴い、細菌性腹膜炎による腹水貯留が認められます。

低アルブミン血症

  • 栄養不良
    • アルブミンは血液のタンパク質で、血漿の浸透圧を維持する役割を果たします。低アルブミン血症(例えば、栄養不良や慢性腸疾患など)では、血管内の圧力が低下し、液体が血管外に漏れ出して腹水や胸水が貯まります。

外傷や手術後の合併症

  • 外傷による胸腔や腹腔の損傷
    • 交通事故や落下などの外的な衝撃で内臓が損傷し、出血や液体漏れが発生すると、腹水や胸水が貯まることがあります。特に胸腔内で外傷を受けると、血液やリンパ液が漏れ出し、胸水として貯まります。

リンパ液の漏れ(乳び腹水・乳び胸水)

  • 乳び・乳糜胸
    • 腹腔・胸腔内でリンパ液が異常に貯留する状態です。リンパ管が破れてリンパ液が漏れ出すことやリンパ管の圧迫などが原因です。特に腫瘍や外傷、あるいはリンパ系の障害(静脈血管の鬱滞)によって発生します。

腹水や胸水の性質による分類

胸水や腹水の比重は、その液体の性質や起源を診断する上で重要な手がかりとなります。比重は、液体がどれだけ濃縮されているかを示し、これを使って液体の性質(滲出液、漏出液、または乳び液など)を分類することができます。

  • 漏出液:比重1.018未満。心不全、肝不全、低アルブミン血症などの非炎症性の原因。
  • 変性漏出液〜滲出液:比重1.018以上。主に炎症、感染、腫瘍などによる原因。
  • 乳び液:比重1.015〜1.025。リンパ管の障害により乳白色の液体が漏れ出す。中性脂肪が高い。
  • 血性液:比重1.020〜1.030。出血や血管破裂による液体。

比重に加えて、細胞数、タンパク質濃度、外観(色や透明度)生化学的性状なども考慮し、最終的な診断を行います。

まとめ

胸水や腹水の貯留はFIP(ウェットタイプ)以外でも多くの疾患により引き起こされます。心疾患、肝疾患、腎疾患、腫瘍、感染症、低アルブミン血症、外傷などが代表的な原因です。液体の性状や伴う症状によって、原因を特定するためには動物病院での詳細な検査が必要です。

湘南Ruana動物病院ではFIPの診断・治療を積極的におこなっております。茅ヶ崎・藤沢エリアでFIPに関してお悩みの方は湘南Ruana動物病院までお問い合わせください。

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