猫のFIP(猫伝染性腹膜炎)Q&A|症状・治療・再発まで徹底解説
FIP(猫伝染性腹膜炎)は、かつて「治らない病気」とされてきましたが、現在は治療により多くの猫が回復できるようになってきています。ただし、正確な知識と早期対応が非常に重要です。
この記事では、飼い主さんからよく寄せられる質問を Q&A形式 でまとめました。
「ウェット型・ドライ型の違い」「再発率」「治療終了の基準」など専門的な内容も分かりやすく解説します。
当院のFIP治療に関してはこちらをご覧ください。
FIP(猫伝染性腹膜炎)Q &A
- FIPとはどのような病気ですか?
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FIP(猫伝染性腹膜炎)は猫コロナウイルス(FCoV)が体内で突然変異し、マクロファージに感染して全身に広がる病気です。
猫コロナウイルスは多くの猫が保持する一般的なウイルスで、多くは無症状または軽い下痢ですみます。しかし、ストレスなどの影響で体内で突然変異すると、重篤なFIPに進行することがあります。
- FIPが発症するとどのような症状が起こりますか?
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初期症状は非常にわかりにくいです。
FIPの初期症状は非特異的で、以下のような”何となく元気がない”変化が多く見られます。- 食欲低下
- 元気低下
- 熱っぽい
- 体重減少もしくはお腹が張る
- 呼吸が荒い
これらの症状だけではFIPとは判断できないため、違和感を覚えたら早めの受診が重要です。
- FIPが発症しやすい条件は?
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FIPは1歳未満の若齢猫に発症が多いとされていますが、高齢猫でも発症します。
純血種・雄猫・多頭飼いに発症が多い傾向があることから、環境ストレスや猫コロナウイルスの蔓延が影響しているものと考えられます。
- FIPのウェット型とドライ型とは?
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FIPには全身性の血管炎に伴う腹水・胸水・心嚢水の滲出を主としたウェット型と、眼・神経・消化管・腎臓などに肉芽腫(炎症の塊)を形成するドライ型に分かれます。またこれら2つの状態が合わさった混合型も存在します。
ウェット型の特徴は
- 急激に悪化しやすい(無治療では〜1ヶ月程度で死に至る)
- 胸水・腹水・心嚢水が貯留する
- 呼吸が苦しそう、腹囲膨満が目立つ
- 診断しやすい
などが挙げられます。
ドライ型の特徴は
- 水の貯留がない
- 局所的な症状が出やすい
- 多くは比較的進行が遅いが、神経病変では急激に悪化する事もある
- 診断が難しい
- 抗ウイルス薬の用量や種類を調節する必要がある
といったものが挙げられます。
- FIPの診断方法は?
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診断は「複数の検査の組み合わせ」で総合的に判断します。
ウェットタイプのFIPではPCR検査などで直接的に診断する事が可能なケースがあります。
一方、ドライタイプは単独の検査だけでは確定できないため、以下を総合的に評価します。- 身体検査(入念な問診、体温測定、神経学的検査、眼科検査)
- 血液検査(A/G比の低下、高グロブリン、貧血、ビリルビンの上昇など)
- 画像検査(エコーで、リンパ節や腎臓や脾臓の形態を確認)
- 細胞診(病変部の細胞構成の評価)
- 特殊な血液検査(FCoV抗体価検査、SAA、AGPなど)
- PCR検査(腹水・胸水、病変部、血液などからウイルス遺伝子を検出)
獣医師が多角的に判断する必要のある難しい病気です。
- FIPの治療法は?
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2019年頃まで不治の病と言われていたFIPですが、現在では寛解に至る可能性のある薬が存在します。
GS441524
- 日本では未承認
- 各社製品で薬剤濃度や品質のバラつきがあるとされている点に注意
モルヌピラビル
- 人の抗ウイルス薬として開発
- 薬の安全域が狭い
- 副作用のリスク(ウイルスの変異原性、免疫抑制、成長板異常、催奇形性など)
- 調剤方法に注意が必要
治療は獣医師の判断のもと、安全性と効果を慎重にモニターしながら進める必要があります。
- 治療期間はどれくらい?
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標準は「84日(12週間)」が推奨されています。
一部、42日プロトコールもありますが、データが少なく一般的ではありません。症状や治療効果判定により、延長が必要な場合もあります。
- 84日で治療終了すると判断できる基準は?
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治療終了の目安は以下の通りです。
- 臨床症状(発熱や食欲低下など)の改善が安定している
- 画像検査で病変の消失や縮小を確認
- A/G比の正常化
- SAAが基準値内
- AGPの低下
これら全てが治療開始10週目に満たせれば、12週(84日)での治療終了を目指す事ができます。
治療終了後は定期検診を1ヶ月〜数ヶ月毎に行い、1年間はフォローアップします。
- FIPは再発する?
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報告によって幅がありますが、「数%〜10%前後」で再発が起こると言われています。
再発の原因としては以下のものが挙げられます。
- 低品質なGS製剤や濃度のバラつき
- 投与量不足
- 投与期間不足(モニタリングの軽視)
- 神経や眼内病変など難治性症例
- 新たに猫コロナウイルスに再感染し、「新規でFIP化」したケース
- FIPはうつるの?
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FIPの原因となる変異ウイルスはマクロファージ(免疫細胞)の中で増えるので、FIP自体は猫同士でうつし合いしません。ただし「普通の猫コロナウイルス(FCoV)」は容易にうつるため、多頭飼育では注意が必要です。
つまり、
「FCoVはうつるが、FIPVはうつらない」
ということになります。
- ファミリー(多頭飼育)間でFCoVは撲滅できる?
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完全な撲滅は非常に難しいと考えられます。1頭〜少数飼育では9〜12ヶ月以内に自然消滅することがあるとされていますが、3頭以上の多頭飼育環境では、互いにうつし合ってしまうため終息しにくいと言われています。
「GS類似薬をファミリー猫に1週間予防投与によってFCoV排除できた」という一部の報告がありますが、耐性ウイルス出現のリスクや未承認薬の乱用、倫理的問題といった要素から、現時点では推奨されていません。
- では、何か家でできる事はありますか?
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現実的な家庭での対策としては以下のようなものが挙げられます。
- 感染猫と他の猫と隔離期間を確保する
- トイレの数を増やす(最低頭数+1つ)
- 毎日の徹底的な清掃を行う
- ストレスの少ない環境づくり
- 定期的な抗体価検査や糞便PCR検査の実施
まとめ
FIPは重篤な病気ですが、
早期発見 × 適切な治療 × 綿密な経過観察 により、多くの猫が回復できる時代になっています。
- 初期症状は分かりにくい
- 診断は総合評価
- 治療の主流はGS441524やモルヌピラビル
- 通常は84日治療
- 再発は数%〜10%程度
- 多頭飼育ではFCoV管理が重要
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