猫のジアルジア症とは?|症状・診断・治療・家庭での予防策まで徹底解説

猫の下痢の原因として比較的よく見られる「ジアルジア症」。特に多頭飼育や子猫では注意が必要な寄生虫感染症の一つです。本記事では、ジアルジアとはどんな病原体か、人や犬との違い、症状、診断法、治療法、家庭でできる予防・消毒法まで詳しく解説します。

ジアルジアとは?人・犬・猫では型が違う!

ジアルジア(Giardia intestinalis、またはG. duodenalis)は、小腸に寄生する原虫(寄生性の単細胞生物)です。

ジアルジアには複数の遺伝的タイプ(アセンブラージュ:Assemblage)があり、動物種ごとに感染しやすい型が異なります。

アセンブラージュ主な感染対象備考
A・B型人・一部の犬猫人獣共通感染の可能性あり
C・D型犬専用人には感染しない
F型猫専用猫に特異的。人には基本感染しない

つまり、猫で見られるジアルジア(F型)は基本的に人や犬には感染しませんが、まれにA型が検出されることもあるため、念のため飼い主側自身も衛生対策が必要です。

ジアルジアのライフサイクル

ジアルジアは環境抵抗性と感染力のある「シスト型(卵のような形)」と、小腸で元気に動き回り直接的な弊害となる「栄養型(運動性あり)」の2つのライフサイクルを送ります。
猫が食物・飲料水・環境(感染猫の糞便に汚染されたところ)から「シスト」を摂取すると、小腸で「栄養型」に脱嚢し、腹部の吸盤で粘膜に付着します。小腸内で無性増殖し、小腸のさらに下方で「シスト化」し、数週間から数ヶ月間、大量に(時には断続的に)便中に排泄されます。

運動性のある「栄養型」は環境変化に非常に脆く、新鮮でまだ温かい便中では生きられるものの、時間経過で死滅してしまいます。一方で「シスト型」は非常に環境抵抗性が高く、排泄されるとすぐに感染性を示し、長期間(数ヶ月間)環境中で生存できます。特に環境がより寒くて湿度が高いほどシストの感染力は長くなります。

感染してからの潜伏期間は4日〜16日で、感染から糞便中に寄生虫が初めて検出されるまでの最短期間は平均7日と言われています。

猫のジアルジア症の症状|小腸性の下痢が中心

ジアルジアは小腸の粘膜に付着し、消化吸収を妨げることで症状を引き起こします。

主な症状

  • 軟便〜水様便(ベタベタとした悪臭を伴う便になることが多い)
  • 断続的または慢性的な下痢
  • 体重減少
  • 元気や食欲は比較的保たれていることが多い

下痢の性状としては、粘液や血液を伴わず、臭いが強い脂肪便が一般的で、いわゆる「小腸性下痢」に分類されます。

ジアルジアの診断方法|便検査だけでは不十分?

ジアルジア感染の確定診断には便の中に含まれる「シスト」または「栄養型」の検出が必要です。ただし、シストの排泄は断続的(間欠的)なため、1回の検査で見つからないことも多いです。

主な診断法

診断法特徴精度
直接塗抹法新鮮な便を顕微鏡で観察簡便だが感度は低め
浮遊法濃縮してシストを確認感度高め。複数回実施が理想
ELISA法・迅速キット糞便中の抗原を検出高感度・高特異度。実用的
PCR法遺伝子検出。アセンブラーの判別も可能高精度だが高価で検査機関が限られる

ポイント

  • 可能なら3日間連続または1日おきの便検査がおすすめ
  • 症状があっても検査が陰性のことがあるため、臨床症状との総合判断が重要

治療方法

ジアルジアの治療には、抗原虫薬を数日〜10日程度投与します。以下は主な治療選択肢です。

主な治療薬

薬剤名用法備考
メトロニダゾール通常5〜7日間古くから使われるが苦味あり・嘔吐など副作用も
フェンベンダゾール(パナクール)3〜5日間安全性高め。寄生虫駆除も可能
ドロンタールプラス(犬用)成分にフェバンテル含むため類似効果あり猫には使用外だが、成分を参考にして処方設計されることあり。投与は必ず獣医師の判断のもと行うこと

※猫専用のジアルジア駆除薬は限られるため、体重や症状に応じてオフラベル(適応外使用)になるケースもあります
ドロンタールプラスに含まれるフェバンテルは肝臓で代謝を受けてフェンベンダゾールになるプロドラッグですが、猫の代謝酵素(特にCYP450群)は犬とは異なるため、薬効・薬物動態は一部異なる可能性があります。


治療後の確認

ジアルジアは シスト として環境中に排出され、水や物の表面でしばらく生存できます。治療効果は以下の方法で再確認します。

1.症状が消失したか?

軟便や下痢の改善も目安になります。一方、無症状でも持続感染している場合があるため、便検査での確認は必要です。

2. 便検査(糞便検査)

  • 治療終了後 5〜7日以上経ってから 便検査を実施
  • 検査方法:
    • 直接塗抹法(新鮮な便を顕微鏡で観察)
    • 浮遊法(シストの濃縮)
    • ELISA法やPCR法(精度が高く、推奨)

※シストは排泄が断続的なので、複数回検査(3日間連続や1日おきに2回以上) することで精度向上。


環境からのジアルジアの自然消失までの期間

  • シストの環境内生存期間(条件による):
    • 湿った環境:1週間〜数週間
    • 乾燥・高温環境:数日以内
  • 十分な掃除・消毒をすれば、おおむね1〜2週間で再感染のリスクは大幅に低下します。
  • ただし、複数頭いる場合は 全頭同時に治療・検査・環境消毒を行わないと再感染のループが続きやすい です。
  • 同居猫は無症状でも便検査と予防的治療を検討します。

自宅での予防・消毒・再感染対策

ジアルジアのシストは環境抵抗性が強く、長期間環境中に生存します。多頭飼いのご家族の場合、他の猫ちゃんにも感染してしまう可能性があるため、治療中〜治療後は徹底的な衛生管理が必要となります。

トイレや生活環境の衛生管理・隔離

  • 排泄物は即時処理
  • トイレ砂は小まめに全交換
  • 多頭飼いの場合は、他の子との生活環境をできれば隔離

トイレ・布製品の消毒

一般的な消毒方法としては以下のものが挙げられますが、中にはジアルジアに無効なものもありますので注意が必要です。

熱湯(60℃以上):最も有効で確実!

  • 有効性:★★★★★
  • 理由:ジアルジアのシストは高温に弱いため、60℃以上のお湯やスチームは非常に効果的。
  • 使用例
    • ペットのトイレや食器の消毒
    • タオルやブランケットの洗濯(60℃以上で洗濯・乾燥機も◎)スチームアイロンも◎
    • 床やケージにスチームクリーナーを使う

ポイント:熱湯消毒は「即効性」「残留性なし」「耐性リスクなし」で、最もおすすめ。

次亜塩素酸ナトリウム(ハイター):条件付きで有効

  • 有効性:★★★☆☆(正しく使えば○)
  • 濃度目安0.75%以上(通常の家庭用塩素系漂白剤を原液1:5で希釈)
  • 使い方
    • 5分以上の「十分な接触時間」が必要
    • 洗い流しが必要(ペットの皮膚に残ると有害)
    • 金属・布・床材を痛めるリスクあり

注意点

  • 薄めすぎると効果なし
  • シスト表面の保護構造が塩素に強いため、高濃度・長時間接触が前提
  • 安全な換気と取り扱いを忘れずに

アルコール(エタノール):無効

  • 有効性:★☆☆☆☆
  • 理由:アルコールはジアルジアのシストの外殻(厚い殻)に浸透できないため、効果はありません。

つまり

  • 手指消毒には有効でも、環境中のジアルジア消毒には不適
消毒法有効性注意点
熱湯・スチーム◎(最良)安全・素材への影響少
次亜塩素酸ナトリウム△(条件付き)高濃度・接触時間・洗い流しが必要
アルコール×(無効)感染防止には役立たない

ご自宅での再感染防止には、「熱湯+スチーム±次亜塩素酸の組み合わせ」が理想です。特に子猫や多頭飼育環境では、徹底した衛生対策が再発予防につながります。

まとめ|ジアルジアは再発しやすいが、対策すれば防げる!

猫のジアルジア症は、軽度な下痢から慢性的な軟便までさまざまな症状を引き起こす寄生虫感染症です。診断が難しいこともありますが、適切な薬と衛生管理で完治が可能です。

再発や再感染を防ぐには、全頭の同時治療と環境の徹底的な消毒が不可欠です。気になる症状がある場合は、早めに動物病院で相談しましょう。

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茅ヶ崎市・藤沢市エリアで犬猫の消化器症状でお困りの際は湘南ルアナ動物病院(湘南Ruana動物病院)までお気軽にご相談ください。