犬と猫の慢性腎不全(CKD)の治療戦略について

慢性腎不全(CKD)は進行性の病気ですが、早期から適切にケアすることで、愛犬・愛猫の生活の質(QOL)を長く保つことができます。今回は治療やケアを「4つの柱」に分けてご紹介します。


①食事と水分〜腎臓にやさしい暮らしの基本〜

腎臓に負担をかけるタンパク質リンナトリウムを制限し、必要なカロリーや水分をしっかり確保することで、腎機能の悪化を遅らせます。
食事の制限はIRISのステージ分類をもとに行われます。

  • (UPCの上昇が認められない)ステージ1の症例では、過度なタンパク質制限は筋肉量や体力の低下につながる可能性があるため推奨されていません。
  • 一方で、いずれのステージでもUPC(尿中タンパク/クレアチニン比)の上昇が認められる場合には、タンパク質の制限が推奨されています。
  • また、ステージ2(後期)以上の症例でも、タンパク質制限が必要とされています。
  • さらに、各ステージごとに血清リンの目標値が定められており、その数値に応じてリンの制限が行われます。

最新のにおけるIRIS CKDガイドラインでは、血清中の線維芽細胞増殖因子(FGF-23)の基準値も設定されており、これに基づいてステージ1〜4までのリン制限の指針が更新されています。


②腸内での介入:尿毒素・リンのコントロール

尿毒症とは、糸球体濾過率(GFR)の低下により血中に老廃物質が蓄積することと、その結果生じる臨床症状の両方を指します。臨床検査で用いられる血中尿素窒素(BUN)とクレアチニン(Cre)は代表的な尿毒素ですが、推定上の尿毒素である約146種類の有機溶質のうちの2つにしか過ぎません。
これらの物質の多くは体内で積極的に制御されず(解毒できず)腎臓から排泄されるため、GFRの低下により徐々に増加します。特に注目されているのが、腸内細菌(いわゆる有害菌=悪玉菌)によるタンパク質異化の老廃物である尿毒素(インドキシル硫酸塩 [IS]p-クレゾール硫酸塩 [pCS] など)です。これらの物質は病態生理学的に悪影響を及ぼすだけでなく、腎臓そのものにも酸化ストレス・組織の繊維化促進・炎症誘発作用を引き起こすと考えられています。

Success

猫における血中のインドキシル硫酸[IS]と血清中の線維芽細胞増殖因子(FGF-23)は正の相関関係にあると報告されています。腸内フローラの正常化は尿毒素の産生抑制およびリンの制限に貢献する可能性も考えられます。

これらのことから、腸内での介入としては「毒素産生を抑える(有益菌を増やして有害菌の繁殖を抑える)」「尿毒素やリンを体内に吸収させない」事がポイントです。

目的具体的なアプローチ使用薬剤・サプリ名
🧪尿毒素の産生抑制腸内細菌によるインドールやp-クレゾールの生成を抑えるプロバイオティクス(ツヤットプロ®、サイボミックス®、カリナール2®、フローラシンク®など)
プレバイオティクス(ケストース®、ベルキュアBow®など)
🛡️尿毒素の吸収阻害腸内で尿毒素前駆物質を吸着クレメジン(コバルジン®):インドール・pCSの吸着
ネフガード®(活性炭)
イパキチン®(炭酸Ca、キトサン)
🧲リンの吸収阻害食餌中リンと結合し、吸収を防ぐレンジアレン®(塩化第二鉄)
リンケア®(クエン酸鉄)
炭酸ランタン
イパキチン®(炭酸Ca、キトサン)
カリナール1®(炭酸Ca、クエン酸K)

吸着剤の選択は?

炭酸Caは比較的安価な吸着剤です。胃内 pH の上昇(制酸剤の併用)はCa の解離を抑制し、リン吸着効果を著しく低下させるので注意が必要です。また、高容量投与で高カルシウム血症や異所性石灰化のリスクも高くなります。

炭酸ランタン鉄製剤炭酸Caの1.5倍ほどの吸着力を有する強力な吸着剤ですが炭酸Caと比較すると高価です。いずれも、便秘・嘔吐といった副作用を有する可能性はあります。甲状腺ホルモン製剤、ニューキノロン系抗菌薬、テトラサイクリン製剤の吸収を阻害する恐れがあります。


③腎臓を保護する:病態の根幹にアプローチ

腎臓を保護するためのアプローチとして、腎血流の維持血管拡張酸化ストレスの軽減とミトコンドリア活性の改善、さらに炎症や線維化の抑制が挙げられます。
腎血流の低下は組織の虚血や低酸素状態を招き、腎機能のさらなる悪化につながるため、血管拡張薬の使用などにより十分な血流を確保することが重要です。また、慢性腎臓病では酸化ストレスの亢進とミトコンドリア機能障害が進行の一因とされており、抗酸化作用を有する物質やミトコンドリア保護を目的とした治療が注目されています。加えて、腎組織内の慢性炎症や線維化は不可逆的な構造変化と腎機能低下を引き起こすため、これらを抑制することもCKD治療における重要な方針となっています。

目的作用内容使用薬剤・サプリ名
💧腎血流の維持/血管拡張NO産生、レニン抑制ACE阻害薬(エナラプリル、ベナゼプリル)
アンジオテンシンII受容体拮抗薬(テルミサルタン=セミントラ®)
ベラプロストNa(ラプロス®
アミンアバスト®(L-アルギニン)
皮下点滴(乳酸リンゲルなど)
🔋抗酸化作用・ミトコンドリア活性ROS除去・ATP産生維持アミンアバスト®(L-システイン、タウリン)
eneALA®(5-ALA)
アミノキュア®(L-カルニチン)
🔥抗炎症・抗線維化TGF-β抑制・サイトカイン調節プレドニゾロン(低用量)※症例による
クレメジン(間接的に抗線維化)
オメガ3脂肪酸(抗炎症作用)
Success

オメガ3脂肪酸の摂取量は?

NRC(全米研究評議会:Nutrient Requirements of Dogs and Cats,2006)が示す基準では、健康な個体の最低限の摂取量は

犬:EPA+DHA=約30mg/kg/日、猫:EPA+DHA=約25mg/kg/日

とされており、慢性腎臓病においては以下のように、高用量での投与が推奨されています。

犬:EPA+DHA=約40〜75mg/kg/日、猫:EPA+DHA=25〜50mg/kg/日

腎臓療法食にはあらかじめ適量のEPA/DHAが含まれている事が多いですが、不足分はサプリメントなどで補充も検討します。


④合併症への対応

CKDに伴って生じるさまざまな合併症への対応も、腎機能の維持とQOL(生活の質)の向上において欠かせない重要な要素です。
蛋白尿は腎機能悪化の指標であり、RAAS抑制薬などを用いた早期の治療介入が推奨されます。また、高血圧は腎臓への負担を増大させるため、降圧薬を適切に使用し血圧管理を行うことが必要です。CKDが進行するとエリスロポエチンの低下による貧血がみられることもあり、状況に応じて造血ホルモン製剤や鉄剤の補充を行います。さらに、カリウムやリン、カルシウムなどの電解質異常も注意が必要で、食事療法や薬剤での補正が行われます。加えて、CKDの進行に伴う食欲低下や代謝異常による筋肉量の減少(サルコペニア)にも配慮し、十分な栄養管理やサプリメント、運動療法を併用することが推奨されています。

病態治療内容使用薬剤・サプリ名
🧪蛋白尿の治療糸球体圧の低下ACE阻害薬/ARB
食事中のタンパク質を制限
💉高血圧の治療降圧薬で腎機能悪化を防ぐACE阻害薬
アムロジピン
テルミサルタン(ARB)
🩸貧血の治療基質(鉄)を補充し造血を促す赤血球造血刺激因子製剤(ダルベポエチンなど)
鉄製剤など
🧂電解質補正カリウム低下・代謝性アシドーシスの是正クエン酸K、グルコン酸Kなど
重炭酸ナトリウム・KCL添加皮下点滴など
💪筋量の維持過度な蛋白制限回避・代謝支援eneALA®(5-ALA)
アミノキュア®(L-カルニチン、HMB)
ベルキュアLiv®(BCAA)
可消化性の高いタンパク質源(療法食選択)

※脱水で状態が不安定な犬猫に対しては、十分に水和せずにACEIまたはCCB(アムロジピンなど)の投与(ARBの併用あり/なしに関わらず)を開始すると糸球体濾過率(GFR)の急激な低下が起こる場合があるため、これらの薬剤の投与は慎重に投与計画を立てること。



補足:使用の順序とステージ対応(IRISガイドライン)

標準治療においては、国際獣医腎臓病研究グループ(IRIS)の慢性腎臓病ガイドラインを元に行われます。2016年度版ではありますが、日本獣医腎泌尿器学会で詳しく臨床向けにまとめられたものがありますので、そちらも是非ご参考ください。

まとめ

慢性腎臓病の治療は「これだけやれば大丈夫」という単純なものではありません。IRISのガイドラインをベースに、今回ご紹介した4つの柱(病態生理)も意識してバランスよくケアを続けることが、進行を防ぎ、愛犬・愛猫との時間を少しでも長くする近道です。

どの方法がその子に合っているか、獣医師と相談しながら選んでいくことが大切です。ご不安なことがあれば、いつでもお気軽にご相談ください。

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