FIP(猫伝染性腹膜炎)の検査とは?正しい診断のために必要な検査を解説

FIP(猫伝染性腹膜炎)は、若い猫で特にみられる重篤な病気で、2019年ごろまでは有効な治療法がなく、致死率100%の不治の病として扱われてきました。近年は(国内未承認動物用医薬品ではありますが)抗ウイルス剤の登場により「寛解する可能性がある病気」に変わりつつあります。
しかしその一方で、診断がとても難しい病気として知られています。特にドライタイプでは1つの検査だけで「確定」できることは少なく、複数の検査を組み合わせて総合的に診断します。
今回は、動物病院で行われる FIPの検査手順をわかりやすく解説 します。
FIPとは?

FIPは「猫コロナウイルス(FCoV)」が体内で突然変異し、全身に炎症を起こす病気です。
FIPには次の2つのタイプがあります。
- ウェットタイプ(胸水・腹水が溜まる)
- ドライタイプ(しこり状の肉芽腫。神経症状や眼症状の場合、こちらのタイプが多い)
またウェットタイプとドライタイプの両方の性質を併せ持つ「混合タイプ」も存在します。
FIPの検査手順
従来、FIPと診断される事は、猫ちゃんと飼い主にとって死亡宣告をされた事と同じでした。近年では有効な抗ウイルス薬がありますが、使用される薬剤も決して安いお薬ではありません。よって、可能な限りの確定診断に近い検査結果を提示すべきです。
FIPの診断は主に以下の検査にて総合的に判断します。

問診や身体検査においてFIPの可能性が考慮される場合、以降はFIPおよびFIPに似た疾患の両方をイメージしながら除外診断を続けます。以下、FIPと類症鑑別が必要な疾患例です。
| ウェットタイプ | ドライタイプ |
| 腫瘍(特にリンパ腫・播種性/転移性腫瘍) | 腫瘍(特にリンパ腫) |
| 細菌性腹膜炎(主に消化管穿孔)/胸膜炎(膿胸) | 感染症(トキソプラズマ症、抗酸菌症、FVR、ヘモプラズマ症、FIV/FeLVなど) |
| 門脈高血圧症 | 自己免疫性・炎症性疾患(IMHA、膵炎、腎盂腎炎、胆管肝炎など) |
| 高アルドステロン症 | 神経疾患(脳炎、髄膜炎など) |
| 心不全 | |
| 静脈圧亢進(肝線維症や巨大腫瘍による圧迫など) | |
| 非感染性腹膜炎(急性膵炎、胆管肝炎など) |
シグナルメント・稟告・身体検査

上図は一般的に言われているFIP症例のシグナルメント・稟告・身体検査所見をまとめたものです。
FIPを疑う際、問診から得られる環境情報は非常に重要です。特に確認すべき項目は、
① FCoV(猫コロナウイルス)感染猫の同居の有無、
② 多頭飼育かどうか、
③ 年齢・性別・品種、の3点です。
飼育猫の約40%未満がFCoVに感染していると言われ、特に持続的かつ多量にウイルスを排出する猫がいる環境では感染リスクが高まり、FIP発症率も上昇します。またFIP発症猫の約60%は2歳齢未満で、雄猫や純血種に多いとされています。これは遺伝的というより、行動や環境由来のストレスの影響が大きいと考えられています。
稟告では、非特異的な症状を主訴に来院するケースもあり、「何となく元気がない」や「何となく熱っぽい」といった主訴で来院することも多いです。
紹介症例以外では筆者がよく遭遇するFIPと診断に至った症例の主訴として下痢などの消化器症状が多いと感じています。
身体検査所見は非特異的なことが多いです。39.0℃以上の(抗生剤に反応しない)発熱が認められる事が多いですが、発熱がなくてもFIPと診断に至るケースも少なくありません。神経型の所見では、けいれん・異常行動/情緒不安・前庭障害兆候、運動失調、協調運動障害、知覚過敏などで来院されるケースがあります。
一般臨床検査
血液検査

血球検査では、非再生性貧血・リンパ球減少・好中球減少・血小板減少などがみられることがあります。ただし、初期は正常所見のことも多く、診断的価値は高くありません。一方で、非再生性貧血はFIPの進行度の指標となり得ます。
血液生化学検査はFIPに限らず多くの疾患で必須ですが、FIPに特徴的な異常としては高グロブリン血症、低アルブミン血症、高ビリルビン血症が挙げられます。
総タンパク(TP)とアルブミン(ALB)が基準値内に収まっている場合でも、ALBが低値に近いことで相対的にグロブリンが高くなっている例は少なくありません。
そのため、実測値だけでなくA/G比で評価する習慣が重要です。
一般にA/G比0.4〜0.5未満でFIPを疑い、0.6未満で可能性を考慮します。
ただし、局所型(神経型など)ではA/G比が低下しないこともあり、正常でも除外ができないケースがある事も覚えておく必要があります。
鑑別およびリスク評価としてFIV/FeLV検査も実施します。
画像検査
レントゲン検査のみでFIPを特異的に診断することはできませんが、他疾患の除外や併発病変の評価という点では有用です。胸水や腹水の有無、マスエフェクトの存在、腎臓・肝臓の腫大などを含め、全身状態を俯瞰的に評価する目的で実施されます。
一方、超音波検査ではFIPを疑う特徴的な所見を捉えられることがあります。

主に確認すべきポイントは以下の通りです。
・腹水、胸水、心嚢水の有無
・腎臓周囲における混合エコー帯の存在
・リンパ節腫大の有無
・腸管筋層の偏在性肥厚や腫大の有無
これらはいずれもFIPで比較的よく認められる所見ですが、画像検査のみで確定診断に至ることは困難です。鑑別診断のためには、生検による細胞診、PCR検査、組織学的検査などが必要となります。特に臨床現場では、リンパ腫との鑑別が重要なポイントとなります。
生検(細胞診・PCR・組織学的検査)
貯留液の検査

画像検査により腹水・胸水・心嚢水などの貯留液が確認された場合、診断的価値を考慮し、原則として穿刺・抜去を行います。
貯留液の性状評価は、FIPとその他の鑑別疾患を区別するうえで極めて重要な情報となります。
FIPを示唆する貯留液の特徴として、以下の所見が挙げられます。
・軽度〜中等度の粘稠性を有する、黄〜褐色調の透明な液体
・高比重・高タンパク性
・非変性好中球およびマクロファージを主体とした細胞像(好塩基性タンパクに富む背景)
これらの性状は、FIPにおいて免疫複合体の形成とそれに伴う免疫介在性血管炎が生じ、血管透過性が亢進することで、血漿タンパクに富む液体が血管外へ漏出することに起因します。
その結果、単純な漏出液とは異なる高タンパク・高比重かつ粘稠性の貯留液が形成されます。
細胞診・組織学的検査

細胞診や組織学的検査は、特にリンパ腫などの腫瘍性疾患との鑑別において重要な位置づけとなります。
FIPでは、マクロファージを主体に、好中球やリンパ球などの炎症細胞が浸潤する肉芽腫性炎が特徴的です。
採材時はまず塗抹標本を作製し、顕微鏡下で細胞成分を確認します。
同部位から、血液が毛細管現象で針のハブに入る程度の量を吸引し、マイクロチューブに吹きかけてFCoV PCR検査に提出します。
追加検査
貯留液・組織のPCR検査
FCoV PCR検査は、ウイルスそのものを検出する直接的な診断手法であり、FIP診断において高い診断価値を有します。
報告によると、FIP症例において胸水・腹水からのFCoV検出率は88.9〜100%、肉芽組織からは約90%と高率であったとされています。一方でFIP非罹患症例では胸水・腹水からの検出率は0〜16.7%にとどまり、肉芽組織からの検出は0%と報告されています。
ゆえに本来、腸管内に局在するはずの腸コロナウイルスが、腸管外(貯留液や肉芽組織)から検出された場合、FIPである可能性は極めて高く、特に組織PCRは高い特異度を有すると考えられます。
なお、血清を用いたFCoV定量PCR検査は典型的所見に乏しく確定診断に難渋する症例において、補助的診断手段として一定の利便性を有します。
抗体価検査・AGP・SAA
ウェットタイプFIPでは、貯留液を用いたFCoV PCR検査により診断がほぼ確定するケースが多く、追加検査の意義は相対的に低いと考えられます。
一方、貯留液を伴わないドライタイプFIPでは、直接的診断に至ることが難しく、単一検査での確定診断は困難です。
そのためドライタイプが疑われる症例では、FCoV抗体価検査やα1-acid glycoprotein(AGP)・SAAといった炎症マーカーに加え、血液生化学検査所見(高グロブリン血症、A/G比低下など)、血清定量PCR、病変部位の組織検査および組織PCRを組み合わせ、総合的にFIPである可能性を評価することが重要です。
特にAGPは非特異的ではあるものの、FIPでは顕著な上昇を示すことが多く、他の検査結果と整合する場合には診断の後押しとなります。
詳しい診断手順は株式会社MLT様のフローチャートがとても参考になりますのでぜひご覧ください。
FIPの進行度評価

上記検査においてFIPと判断した場合、その進行度も評価します。
従来はウェット・ドライといったタイプ別に予後を評価する事がありました
一般的にウェット型は体腔液貯留が主体、進行が早い傾向です。ドライ型は肉芽腫病変が主体で比較的緩徐に進行します(肉芽腫形成部位により予後が変わる)。
かつてはこの分類から予後を「ウェットは数週間〜1か月程度、ドライは数か月程度」という大雑把な予想を立てることがありました。
近年では臨床症状・検査値に基づく病期分類と予後予測の考え方が臨床で活用されるようになっています。
治療評価

抗ウイルス薬などを用いてFIP治療を行う場合、治療開始後1か月間は原則として週1回、その後は2週に1回程度の頻度で臨床症状および検査所見を評価し、治療反応を判定します。
治療開始後に期待される主な改善時期の目安は以下の通りです。
- 発熱・食欲低下・活動性低下の改善:2〜7日
- 貯留液(腹水・胸水など)の減少・消失:1〜2週間
- 血球異常(貧血・白血球異常など)の改善:2〜3週間
- 高ビリルビン血症の改善:2〜3週間
- A/G比の改善:6〜10週間(A/G比>0.6)
- 眼症状・神経症状の改善:5〜14日
※脊髄病変を伴う症例では改善に時間を要することがあり、後遺症が残る可能性もある
現在、FIP治療の標準的な治療期間は84日間(12週間)が目安とされています。
治療終了の可否については、10週目前後の検査結果を重要な判断材料とし、
- すべての臨床症状が消失していること
- A/G比が0.6以上であること
- SAAが基準値内であること
- AGPが500 μg/mL未満であること
これらの条件を満たしている場合、84日間での治療終了を検討することが可能と考えられます。
まとめ
かつてFIPは「診断=致死的疾患」と考えられてきましたが、現在では抗ウイルス治療の登場により治療が可能な時代になりつつあります。
一方で、FIP治療薬は非常に高額であり、治療開始には大きな判断が求められます。
そのため、FIPを強く疑う所見があっても、他の鑑別疾患を丁寧に除外したうえで診断に臨むことが極めて重要です。
正確な診断こそが、猫と飼い主にとって最善の治療選択につながります。
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