【第3回】犬猫の誤食・中毒について
はじめに
こんにちは。湘南Ruana動物病院です。
犬猫の誤食とは、ペットが本来食べてはいけない(と思われる物)を誤って口にしてしまう事を指します。これは日常生活の中でよく起こる問題で、家の中にある(もしくは外にある)様々な物(人の食べ物、薬品、日用品、植物など)がペットにとって有害である場合があります。
シリーズ第3回目となります今回は「有害物」をテーマに誤食してしまった際の症状や処置などを解説していきます。尚、本シリーズに記載する中毒量はあくまで参考値となりますので、記載量を下回る摂取量であっても症状を示す場合があります。必ず動物病院まで確認するようお願いします。
目次
タバコ
緊急度レベル:4
症状
ニコチン中毒により、神経症状が認められます。
摂取したニコチン量により様々ですが、軽症例では嘔吐・下痢・流涎・興奮などの症状が、重症例では痙攣発作・昏睡などの重篤な神経症状が認められます。
中毒量
誤食したニコチン量として1mg/kg〜
タバコのパッケージに記載されているニコチン量は吸入時の摂取量であり、実際には10倍程度のニコチンが含まれています。
また、葉巻タバコよりも電子タバコの方がニコチンが濃縮されているため、危険度が増します。
処置
タバコに含まれるニコチンは吸収速度が速く、誤食してから1時間前後で症状が認められる場合があります。
誤食してしまった際には、催吐処置や点滴、吸着剤投与などの治療が早急に必要となります。
殺鼠剤
緊急度レベル:5
犬や猫が殺鼠剤(ネズミ用の毒)を誤食すると、非常に危険な中毒症状を引き起こす可能性があります。殺鼠剤にはいくつかの種類があり、それぞれ異なる作用機序で中毒を引き起こします。
症状
- 抗凝固作用(ワルファリン系)
凝固(血を固める)に必要なビタミンKの働きを阻害し、血液が正常に凝固できなくなります。そのため、血尿・血便・鼻出血・皮下出血などの症状が見られるようになります。また肺や胸腔・後腹膜腔での出血も見られやすく、その場合呼吸困難といった症状も見られるようになります。
- ブロマトリン
脳内のATP(エネルギー)生成を阻害し、神経系にも影響を与えます。具体的には痙攣発作・嘔吐・流涎・運動失調・昏睡などの神経症状を短時間で引き起こします。
- 亜鉛リン化物
胃酸と反応してリン化水素ガスを生成し、細胞エネルギー産生を阻害します。短時間で重度の胃腸症状(嘔吐や下痢)、呼吸困難、痙攣発作、昏睡といった症状が現れます。
- ビタミンD3誘導体
カルシウム代謝に影響を与え、血中カルシウム濃度を急激に上昇させます。カルシウム濃度が急激に上昇することで神経系・循環器系・腎機能へ強いダメージを与えます。
中毒量
製品により様々です。
処置
早期対応が鍵となります。
症状が出る前であれば、催吐処置など一般的な誤食への対応を優先して行います。ワルファリン系の殺鼠剤に対してはビタミンKの長期間投与が必要となります。ビタミンD3誘導体の殺鼠剤に対しては、カルシウムを下げるための薬物療法(カルシトニンなど)も必要に応じて実施します。
ワルファリン系以外の毒物に対して特異的な拮抗剤がないため、中毒症状を起こしている場合にはそれに合った対症療法が必要となります。
殺虫剤
緊急度レベル:2〜5
犬猫が殺虫剤を誤食した場合、中毒症状があらわれることがあります。殺虫剤にはいくつか種類があり、それぞれ異なる毒性と作用メカニズムを持っています。
症状
- ピレスロイド系殺虫剤
蚊取り線香や、ノミダニ予防で使用するスポットタイプの薬剤に含まれる事があります。犬に対してはピレスロイドは安全とされており、ノミダニ予防に使用されるスポットタイプの製品に含まれる事があります。
しかし、猫に対しては過敏症状、痙攣、流涎、嘔吐などの神経症状をきたす可能性があります。特に「ぺルメトリン」と呼ばれるピレスロイド系化合物はずば抜けて猫の中毒事例が多いことで知られています。これは、猫にはペルメトリンを分解するための酵素(グルクロン酸抱合酵素)の活性が低いため、体内でペルメトリンを適切に代謝することができないためと言われています。
ペルメトリンはかつて、犬用のスポット剤にはもちろん、市販(動物病院でなくペットショップなどの販売)のスポット剤やノミ取り首輪などにも使われておりました。
- 有機リン系殺虫剤
除草剤などに含まれる殺虫成分です。有機リン系の殺虫剤は神経系に作用し、神経伝達物質であるアセチルコリンの分解を妨げ、過剰な神経活動を引き起こします。急性の中毒は数分から数時間以内に発症する事が多く、症状は非常に重篤です。
流涎、嘔吐・下痢、異常な涙の分泌、縮瞳、ふらつき、痙攣発作などの神経症状に加え、重篤な場合、呼吸不全・昏睡状態となり、最悪の場合、死亡に至ることもあります。
カルバメート系化合物も同様にアセチルコリンエステラーぜを阻害しますが、毒性はやや弱いとされています。
処置
- ピレスロイド系殺虫剤(ペルメトリン)
猫のペルメトリン中毒症状が認められる場合、痙攣発作やひきつけの制御を優先的に行います。処置が遅れると、脳圧が上昇し、永続的な脳障害が残ったり、筋融解に伴うミオグロビン尿症により腎障害に繋がる危険性があります。治療に際しては抗痙攣薬、鎮静剤などを投与して発作の安定化を図ります。また、脂肪乳剤の投与なども検討されます。
- 有機リン系殺虫剤
摂取後すぐであれば催吐処置(嘔吐させる処置)や吸着剤(活性炭など)の投与などでなるべく体内に吸収されないようにする処置が有効となります。また、アトロピンの投与により、過剰なアセチルコリンの作用を抑制し、神経系の過剰反応を緩和させます。プラドキシム(2-PAM)も使用されることがあり、これによりアセチルコリンエステラーゼの機能を回復させます。
まとめ
今回は「有害物」を誤食してしまった場合について解説させて頂きました。ここにある物以外にも中毒症状を引き起こす物は存在します。
藤沢、茅ヶ崎エリアで、愛犬・愛猫が普段食べ慣れないものを誤って食ベてしてしまった際には、湘南Ruana動物病院までご連絡ください。