犬猫の胸水貯留とは?危険な症状と応急処置について

「最近ちょっと息が荒いな…?」「なんだか呼吸仕方がいつもと違う?」そんな変化を感じたら要注意です。実は胸の中に”水”が溜まっているかもしれません。胸水貯留は放っておくと命に関わる危険な状態です。特に急に呼吸困難を起こした場合はすぐに動物病院での処置が必要になります。本記事では胸水貯留の症状と原因、緊急対応について解説していきます。
胸水とは?
胸水とは、肺より外側〜胸郭内(肋骨の内側)に体液が溜まる状態を言います。液体が貯留する事で肺が膨らみづらくなり、様々な程度の呼吸症状を引き起こします。

胸水貯留による症状
胸水が溜まると、酸素ガス交換が上手く行かなくなり、呼吸困難・異常な呼吸様式(腹式呼吸や浅速呼吸)・疲れやすくなる(元気低下)といった症状が認められるようになります。また、胸腔内圧の変化により、循環血流量の低下・嘔吐や食欲不振といった消化器症状が見られる場合もあります。
胸水貯留による呼吸器症状の発現は、貯留量・胸水の貯留速度(急性・慢性)によって異なります。
急性貯留では少量でも呼吸困難が起こる傾向があり、慢性貯留では胸水量が多くても症状が軽いことがあります。一般的には約20ml/kgを超える貯留量(胸腔の約25%程の貯留)で呼吸器症状が顕著化し、40ml/kg以上(胸腔の約50%以上の貯留)になると重篤な呼吸困難が発生する可能性が高くなります。言い換えると、これ以下の貯留では症状に気づきにくい事もあるため、呼吸器症状がないから胸水貯留を除外する事はできません。
胸水貯留の原因
胸水貯留の原因となる疾患は、胸水の性状により大きく以下にカテゴライズされます。
▼漏出液
低蛋白質性胸水
- 低アルブミン血症(肝不全、腎不全、消化器疾患)
高蛋白質性胸水
- 心疾患(右心不全、拡張型心筋症、拘束型心筋症など)
- 胸腔内腫瘍(リンパ腫、肺腫瘍(転移性を含む)、胸膜腫瘍など)
- 肺葉捻転
- 横隔膜ヘルニア
▼滲出液
- 細菌性胸膜炎(膿胸):外傷性、続発性感染
- 非感染性胸膜炎:FIP(猫)、胸腔内腫瘍(リンパ腫、肺腫瘍(転移性を含む)、胸膜腫瘍など)
▼出血性胸水
- 外傷
- 凝固異常(DIC、血小板減少症、殺鼠剤中毒など)
- 肺葉捻転(初期)
- 腫瘍破裂(血管肉腫など)
▼乳糜液
- 特発性
- 心疾患(右心不全、拡張型心筋症、拘束型心筋症など)
- 腫瘍(リンパ腫、胸腺腫などの縦隔腫瘍)
- 胸管損傷
これらを鑑別する上では、検査用に胸水を一部採取し、胸水の細胞診・蛋白濃度(比重)測定・生化学的検査を実施する事が重要です。また、原因には全身性疾患が関与している事があるため、レントゲン検査・超音波検査・血液検査・血液凝固系検査も実施します。
胸水貯留における緊急対応
胸水の貯留が疑われる場合、迅速な対応が求められます。以下はその基本的なステップです。
初期評価と酸素投与、ルートの確保
呼吸困難が見られる場合は、まずは酸素療法を行い、呼吸をサポートします。酸素療法はいくつかやり方はありますが、当院では酸素フード(エリザベスカラーにシャンプーキャップを付けて隙間から酸素チューブを入れる)を使用しています。すぐに初期対応に臨めるよう血管確保も迅速に行います。
身体検査に加え、胸部の迅速超音波検査(FAST)を実施し、初期評価を行います。
状態の安定化と診断の確定
胸水貯留に限らず、呼吸困難の場合は少しの変化(例えば体勢を変えるなど)だけで容態が悪化する可能性があります。極力体勢も変えず、そのままの状態でできる検査・処置から実施していきます。
胸水貯留の場合には、胸腔穿刺(注射針を胸に刺す)により、胸水の抜去を行います。胸水を急激に除去すると低血圧や不整脈を引き起こすことがあるため、十分に酸素化しつつ徐々に抜去していきます。
呼吸状態が安定化したら、胸部レントゲン検査や超音波検査(全身)、血液検査などを実施して全身状態を把握します。また、抜去した胸水の性状や細胞診を行う事で、感染や腫瘍、出血などの原因を特定する手がかりとなります。
根本的な治療
状態が安定化し、胸水の原因が確認できた場合、根本的な治療を開始します。例えば、心不全の場合は利尿薬や心臓の治療を、膿胸の場合には膿胸ドレーンの設置(手術)、FIPの場合には抗ウイルス薬の投与、腫瘍の場合には化学療法や手術が検討されます。
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まとめ
胸水は貯留の程度により様々な呼吸器症状をきたし、放っておくと命に関わる危険な状態となります。原因特定も大切ですが、まずは十分な酸素化とルート確保、胸水抜去といった緊急処置が重要となってきます。茅ヶ崎市・藤沢市エリアで呼吸状態の異常が認められる場合には湘南ルアナ動物病院(湘南Ruana動物病院)までお問い合わせください。